第26章 だから師走というんです
『ん、近くの方で充分良いでしょ。このまま帰るのももったいないもんね、せっかくだし見てこう、チキンが冷えない程度に。
イルミネーションを見て回ろう!とか言い出さないでよー?部屋に帰ったらケーキも作るんだからね?』
「分かってるってー!僕、部屋でハルカとゆっくりクリスマスを過ごすの楽しみにしてるんだから、そっちが本命だよ」
時間は有限。確かにムード良く街でデートをするのも良いけれど、やることもやらなきゃいけないし。
私の片手にぶら下がる袋を悟はじっと見てにやりと笑った。
「……ところでまたチキンの口になっちゃった?僕がリセットしてあげようか?」
『なってないなってない!』
「えー?ホント?キスなんていくらでもするのに~……」
誰が街中で堂々とするかっ!と言えずに頬を膨らませていれば悟は小さく吹き出して。
「ふふっ、変わらずの可愛い反応。
じゃあイルミネーションちょっと見たら……寄り道もしてくよ」
『んー?寄り道ぃ?』
どこや?まさかいつもの如く任務ではなかろうな…?と不安さえあるなにか深い意味の籠もった悟の発言。じとー…と見上げれば一瞬真顔になってからまた笑顔になって、空いた片手で私の頭を数度わしわしと撫でる。
「今オマエ、任務、とか思ったろ?ソレ、残念だけどハズレ。僕からのハルカへのクリスマスプレゼントを直接渡したいの。だから僕に着いてきて欲しいんだ」
繋いだ手を引くように、前方の空いたスペースを進む。後もう少しで有名店のケーキも引き換える事が出来る。
……クリスマスプレゼント。私からのプレゼントは今彼が巻いているマフラー。ただのマフラーじゃない、諭吉が野口を数人引き連れて旅立っていくレベルのちょっと奮発した買い物だった。流石にシャツに25万も平気で財布を出す人に安物はありえないだろうなって思ってのこと。
……もっと高いものにすれば良かったかなあ…。
それはそれで刺繍すらもためらうか。いや、カシミアの高級マフラーの初めの一刺しも勇気が必要だったけどさ!えーい、どうにでもなれ!って刺繍していった思い出よ。
少し前にバレてからはずっとずっと悟は大事そうに巻いてくれている。洗濯する際も替わりの物じゃなく同じものが良いからと乾燥をきっちりさせて、また巻いて……。凄く嬉しいけどちょっぴり恥ずかしいな、と思っちゃう。