第26章 だから師走というんです
私の唇に重なる悟の唇。共有し合う熱。離れていくと彼の熱が外気に攫われて、視界いっぱいに自信たっぷりの表情が見えて。
並ぶすぐ後ろの人達がヒソヒソと少しトーンの上がった、テンションの高めな耳打ちをしあってる……。
こんな人通りの多い中、行列の中で悟は思いっきりキスをしてきた、というのは離れた瞬間に頭で分かってしまって、肌寒いはずの体が一気に熱っぽくなってしまった……。
『なっん……!?』
なんでキスしたの、と言う前に彼は背筋を伸ばし、私をサングラス越しに見下ろして笑う。
「これでやっとオマエの口はチキンよりも僕を意識してくれたかな?」
『……っ!』
確かに……。さっきまでチキンの事ばかり考え、お腹空いたなー!って気分が一気に悟に塗り替えられて。
口ずさむのを完全に止め、口の中を噛みながらマフラーに隠れるように口元を埋める。悟の香りが充分に染み込んでて余計にどきどきして意識するなっていうのが無理で。
「なに可愛い事してんのよ、お口がカニさんみたいになってんだけど?その顔よく見せて~?」
『……うるせっ』
私の反応を見てか、ケタケタと楽しげに私を笑う彼にもう一度小さく『うるせっ!』と反抗するくらいしか出来ないままに、あっという間に順番が来る。それでも予約なしの列よりは早いけれど……。
お待たせしました!と元気なスタッフに引換チケットを渡してる悟、私は商品を受け取った。
いくらキスしたっていっても強く香りを放つ魅惑には勝てん。よだれ出そう。次はケーキを引き取る、と私の手にはチキンがぶら下がり、悟の空いた片手はポケットに。そしてふたりの間の手は来た時と変わらず彼のポケット内でぎゅっと握ったままで街中を進んで。
ケーキの列にチキンを引き取る時のようにまた並んで、引き換えるその時を待ちながら今日のスケジュールをだらだらと話してた。
「ま、ここのケーキ受け取ったらお出かけのメインの用事が済むけどさー。イルミネーション見んの、近くの所で良い?大きい所だと移動も大変なんだよね~……、」
確かに、今の時間からあちこち混んでるだろうし。今年は近場で過ごしてゆっくりしたいかも。
悟の提案に賛成して私は頷いた。