第26章 だから師走というんです
超大ヒント。おにぎりの具ワード。しがみつく悟はその存在の声を聞き、よりしっかりとしがみついてる。捕まえた獲物を逃すまいとする交尾時のカブトムシかっ!
ゆっくりと油の切れた機材のように、首が固くなったように声の聴こえた方向へとギッギッギギ…と振り向いた。やはりか、そこにはなんとも言えない顔のパンダと両手で顔を隠す狗巻。
『THE・パイセンは見た!』
「あれ、キミ達もアフター楽しんでんの?真希と憂太は?」
「デートだデート「おかかっ!」はいはい、ジャンケンで負けてチキンとケーキを引き取りに行ってんだよ」
私の肩からひょっこりと背後より顔を出してる悟。いや、そこ、何事もなかったように普通の会話するか?とその普通に会話してる悟の横顔を見つめて瞬く。
……いや、スルーは大変嬉しいのですが。嬉しいのですが…!このやりとりの間もがっちりと回された腕が離れないのがなー!
この隙にと藻掻くも彼は平然とパンダ達と会話をしてる。顔を隠してた狗巻もそろ…、と手を退かすとまだほんのりと赤面が残ってる。
「なーんだ、罰ゲームか~…てっきりラブストーリーが突然に始まったのかなって青春を感じちゃったけど。僕達と一緒だねえ~。
まっ!やっぱりクリスマスって行ったらチキンとケーキは欠かせないよね~!」
「しゃけしゃけ!」
ぐっ…!この人絶対大人気なく呪力、いや…無限使ってるっ!そりゃあ掴むに掴めないわけだコノッ!
磁石の同極を近付けたみたいな、何度か経験してる不思議な感覚に必死にしがみつく悟を退かそうにもどうもならんこの現状よ…。
「高菜、」
その高菜、に悟の横顔からふたりを見る。特にパンダとがっつり視線が合ってしまった。
「で、悟。ハルカとなんでこんな堂々と盛ってんだ?物陰ですらねえだろ。こんな所でおっぱじまったら流石に教師としてどうかと思うぞ?」
「い…いぶりがっこ」
……いぶりがっこにはなんの意味が?
何やら恥ずかしそうに頭を振ってるからそういう意味を込められてるんだろ…多分だけど。やっとこの状況に触れられても一切力を抜かない悟は楽しそうにククッ、と笑ってる。
『ん~…っ、ぜんっぜん離れねえや!いい加減離せ~?』
肩越しから見える楽しそうな顔。サングラスから覗くスカイブルーは悪戯にも綺麗で澄んでいて、ちょっと腹立たしい。
舌を出してにっこりと眩しい笑みを向ける悟。