第26章 だから師走というんです
引っ張っていたはずの悟の重みが軽くなり、腹部に回される両腕。ああいつものか。少し歩きづらいけど引っ張るよりは少しだけマシかとそのまま進む。右耳にふっ、と小さな笑みが聴こえた瞬間にこんにゃろ、と覚悟をした。
かぷっ、と唇が耳を食む。
さっき恥ずかしさで熱っぽくなってたけれど少し熱が失われたせいか、それとも彼の口内の熱の方が上だったか。熱くて…いや、それよりも。甘噛みで数度歯が当たってる。
ぞわぁ、と背から感染するように鳥肌が立って、私は急いでお腹の前の両手首を掴んで離そうと奮闘した。
正直ヤバイ。余計に真っ赤になる自信しかない。
『こっ…んな所で何やってんのっ!?』
剥がしてさっさと車行こう、こんな場面見られたら……っ!
楽しんでる悟は片手が腹部を引き寄せたまま、もう片手は背後…右脇からする、と左肩をがっしりと掴んで背後から意地でも剥がれない。早足で急ぐ私に合わせて着いて来ながら熱い口内でちろちろと舌先で耳を舐めてる。これには急ぐ足も止まり、腰が砕けそうになっちゃって。
『ふっぁ…っ!ば、ばば…っ馬鹿ぁっ!』
思わず声も漏れ出して。片手で抑えるももう遅く、熱い口内から解き放たれた耳元で彼は囁く。
「……ククッ、イイ反応するよね~、車庫の裏で"やっちゃう"?」
熱が去った、と思った耳。外気が悟の唾液の残る部分に触れ冷やすと思いきや、再び私自身が燃えるように耳が熱くなる。
こんな所で欲情されちゃ困る、非術師ならともかく呪術師の多い環境。呪力なり研ぎ澄まされた感覚でなり、近くを通った人になんでふたり分の呪術師が車庫裏にいるんだ?と覗かれたらあら、繋がっていますねえ!はい、バッドエンド……ってかそんな外でなんかしないしっ!
私は悪魔の囁きのような誘いを首を振って断った。
『誰かがするか誰がっ!』
「おかかぁ…!」
『そうそう!駄目なモンは駄目だっつってんでしょ!いい加減しつこいとね、悟…このまま背負投げだかんね、て………』
今、おかかって言わなかった?悟じゃねえ声が聴こえたぞ……。