第26章 だから師走というんです
「行ってこい、花嫁」
『ちょ、楽しんでるでしょ野薔薇ーっ!』
「ハンッ、もちろんでしょ?これをからかわずにいつイジれば良いのよ。ほら、新郎が暴走してんぞ~」
どっちみち行くしか無い、と口の中で唇を噛みながら荷物を持って教室を出る。『任務か休み明けにまた!』と荷物をそれぞれ抱えてる皆に言いつつ、返ってくる「良いお歳をー」「じゃあな」という虎杖と伏黒、サムズアップする野薔薇を見て。
まあ、このメンツだし寮で過ごすのなら会う事もあるかもだけど。
廊下を小走りで更衣室へと急ぐ。
私の靴のコッコッコッ、という音以外の人の気配はなく、また立ち止まっている彼の姿は無く。悟の性格を思えば多分、誰かにエンカウントするか人の居る場所までわざわざ行って携帯画面なりアクキーなり見せてんだろうと思えば。
……その光景を想像したくない、恥ずかしい。ただ見せて終わりであれ!と思いたくてひとりぶんぶん頭を振った。綺麗だとか、言ってくれるのは嬉しいけれどあんなにも畳み掛けられたら恥ずか死するっ!
さっさと私服に着替えて、後で制服を取りに来るとして。
外は今日も寒いしね…悟からのお下がりのマフラーを巻きながら、出掛けるからきっと車庫まで行くまでの道のりに誰かを捕まえてるんだろうな、と考えて彼の姿を探す。見かけたら周りに危害を出さないうちに、まだ被害が少ないうちに回収せねば…。
そうきょろきょろしながら速歩きで進めばどこからか聞こえてくるマシンガントーク。奴が居る、側に居る。早く口を塞がなければ。
曲がり角を過ぎた所、悟が書類を抱えた伊地知の首に腕を回し携帯を見せていた。
「見えないけど背中の所もね、素肌が見えててすっごくいいの!振り返ったらもう膝から崩れ落ちちゃう!で、腰ん所もね、ちょっと伊地知~…ちゃんと聞いてる?聞いてないって言うなら乳首ドリル16連撃かますよ?」
「あっはい、聞いてます聞いてます」
『伊地知さんめっちゃ困ってんじゃねえか!』
長時間って事じゃないはず……私が着替えてる間の事だし。それでも忙しい中で話しこまれちゃ困るハズ。だって伊地知は書類を抱えてる……つまりは仕事中の移動してる所で運悪く悟の視界に入ってしまったって事で。