第4章 乱心、暴走
ハルカの生活音が全くしない。
静かな部屋で隣の部屋を気にしていると隣人が外出先から帰ってきたようで騒がしい。物音だけじゃなく、ぶち抜いた壁の隙間から拾う音にはハルカ本人以外の声。男の声が聞こえる。
「なんだなんだ、こんな天才かつ最強の文句なしの僕を振っておいて良い人でも見付けたっていうのぉ?」
気分は心配から不愉快に近いものがある。耳をすませて缶のコーラを飲んでいれば僕はとんでもない場面を知ってしまった。
──いいから一回だけ。そのままで…要らない。大きい、いっぱい、最後まで…明日に響く。
これ、もしかして壁の向こうは濡れ場なんじゃないの…?
不安になりながら見えぬ相手を考える。
相手の男は聞いたことのある声だな……、あれ、これは後輩の七海だ。ハルカが僕を振って、その日の内に七海を部屋に連れ込んでいる。聞こえる言葉はそうだ、身体を重ねる最中のような…?
"あっ…!……イッちゃっ…"
"……私もこれ……イッときます…"
うそ。……マジ?
これ本気で隣でヤッてるんじゃないでしょうね?
思わず握りしめる拳。缶が潰れて、少し残っていた中身が零れて机の上で炭酸がシュワシュワいってる。
まさかまさかのデキていたというより、前々から出来上がってたっていうのか?明日に響かないように早々と済ませてくのか?
確かに、ハルカはややニヒリスティックというか、可愛いというよりもクールな印象の子。一緒に居た期間は短くても、好きな人は好きなんだろう、モテる方であの夜蛾学長のような分類の父親や見たことのないお兄さんが近寄る虫を払っていたというし。そのふたりの目が届かない今じゃもしも七海がハルカに手を出しても止める人、居ないもんね…。
「……チッ」
なんなんだよ……。
ハルカと七海はあんなことやこんなことをする想像が止まらない。耳だけじゃ信じられずに部屋から玄関へと飛び出せば丁度良く七海が玄関から出てきた。