第26章 だから師走というんです
虎杖が呪いを殴っている近くで邪魔にならないように配慮をしながら玉犬が低級の呪いを噛み砕いてるのを見守る。ただそれだけでも私に降ろした鎹は居続けなくちゃ術は解けてしまうから、ただ玉犬を喚び出す、という事に関して伏黒と違うのは、"呪力の消費量が多い"ということ。使い続ければ地毛に戻るから私としてはメリットがある。
領域に行って溜め込んだ呪力をこういう風に繋がった一族を利用すれば良いと呪力の使いみちが分かってる。だから私はこれまでの先祖達のような死因で死なない、死にたくはない。
祖母…ヨミの得意とした呪いが近付くことの出来ない結界使用時よりも、玉犬を出し続ける方が消費量は多いけれど溜め込んでいるものを使っているから丁度良かった。
奥まで行った虎杖が帰ってくる。なんだか玉犬と一緒に走ってくる姿が虎杖も犬っぽく感じた。ドッグランで楽しそうな飼い主とワンコ!みたいなCMに抜擢されそう。まあ、表情はにっこにこよりも慌てたような表情なんだけど。
ザリ、と廃ビルまで入り込んだ小石を靴裏で踏みしめ、止まる虎杖。
「なんで玉犬がここにいんの!?」
「悠仁、ハルカだよハルカ」
「えっハルカが?ナンデ??」
つんつん、と私の肩を突く悟。「春日は禪院家から枝分かれした一族でしょ?今初代を降ろしてんの」と伝えれば両手でぽん、と納得したというジェスチャーをして「なるほどー!」と笑う。そしてしゃがむ。更に私の側にしっぽを擦り付け待機している玉犬を撫で回した。
……玉犬もスキンシップに少し戸惑っている。最初こそうろたえてこちらを見上げていたけれどよすよす…と撫でられると目を細めている。"愛玩用の式神ではないのだが…"と戸惑う鎹のボヤキを私だけが聞いて。
『……ってわけでこうやって虎杖の援護はしておくから。背後はマカセロ!』
「おう、サンキュ!充分に助かるって!」
にこ!と笑い撫でるのを中断した虎杖はストレッチをしながら「よし!」と気合いを入れてる。
通路が終わったら次に待つのはトイレやフロント奥の従業員控室、そして……客室。華やぐ街が明るく照らされているのならばここは照明の当たらない闇。そこに集まる呪いも多く、あちこちからの視線がこちらへと向いている。
忙しくなるぞ、と気合いを入れて私と虎杖は任務に望むことにした。