第26章 だから師走というんです
……今の所、名前や使えるものがよく分かっているのが母と祖母と初代だけ。名前だけ知っててもどういう術式を持っているかは呼ばないと、もしくは領域内で聞かないと判明しない。まあ、その今の私が分かってる三人の中で今の状況に合う術を持っているのが鎹だったってわけで。
『じゃあ、鎹。援護する為に使って貰うから…"仕方がない、末裔には逆らえないと決まりを決めたのは私だ……、玉犬、白銀"』
両手で組み合わせた印。ズズズ…と、暗闇の中の私の周りからこみ上げる影。盛り上がるものの頂は白っぽく、ドロドロと影が泥のようにその呼出したモノの毛並みを伝って落ちていく。
白っぽい、とは思ったけれども僅かな光を受けてその白は輝く。銀色の毛並みを持つ大きな犬だった。伏黒の喚び出す玉犬の一種で白銀という名にふさわしい毛色だった…。
白銀と呼ばれたその玉犬は、「オ゙ンッ!」とひと鳴きをして、身体を形成し終えた後は駆け出していく。一瞬虎杖が振り返り、キョロキョロとしてたのは伏黒の姿を探したからだと思う。まさかここに伏黒が居るわけじゃないんだけれども。
背後…、フロントを正面にして左側の通路から私達を狙ってきた呪いを祓う悟は納得してるようだった。
「初代の鎹は禪院家だったからねー…、今のキミは確かにそういった式神使いとしての回路が流れてる……って事は恵と同じく色々使えそう?」
元々私自身が"式神"を使えないんだから、鎹頼り。で、今の彼女から読み取れるに玉犬しか分からないから、伏黒のように様々なものを喚び出す事は私にも鎹にも出来ない。
だから悟を見上げて私は首を横に振った。
『んー…今喚び出してる玉犬の白銀だけ。後はもう春日家としての術式を開拓していってるから…』
「……ふーん、そっか。でも無理をしない方法がひとつ見つけられて僕は嬉しいかな」