第26章 だから師走というんです
「でもさー、俺、こういう施設入んの初めてなんだけど…!」
『私もこういうのは初めてだわ……』
入り口から進んで正面に対人式のフロント。もちろん今は営業していないから薄暗い中にただのカウンターだけが設置されてる。
こういうタイプ(対面式)は初めてって意味だったんだけど、ラブホそのものと勘違いした人がここに居たようです。私の直ぐ側、背後から「嘘つきちゃんだねー」という言葉。
「先生と生徒じゃない時にホテルは何度か行ってるでしょ?ヤンキーな見た目で清楚ぶるんじゃありません!何も知らないフリして色々知っちゃってるんだからっ!」
振り返れば頬を膨らませてるアイマスクの長身の男。ふたりきりならまだしも…ってかそれでも怒ってただろうけど、虎杖という未成年のクラスメイトの前でとんでもない発言をしてる彼に舌打ちをした。
『…あ?山に連れてって雪に埋めんぞ?
虎杖、こういう下半身で物事を考えるような汚れた大人になっちゃダメだよ、悟になるよ』
悟とよく息が合うから、こういう所までまだ染まってない虎杖にはまっとうな大人として成長して欲しい。その想いで真剣に言えば虎杖はちら、と悟を見てうんうん頷く。
「んっ、そうだなぁ…俺、五条先生は強くてかっこいい!って思うけど…」
「……フッ、でっしょー?僕って強くて格好良くてまるで生きたグリコのハート型キャンディーみたいだよねー!一粒で300メートル!クククッ!」
「下ネタとかこういう面の、残念な所は目指したくないなー!」
にかっ!と言い切った虎杖に悟は口をあんぐりと開け、片腕で泣いてるフリをしてる。「ひどいよ悠仁~っ!」って騒いでいた。
騒ぐ29歳は置いておいて。
フロント前に左右に伸びる通路。帳の効果もあって薄暗く、またフロント右側に階段がある。フロント左側は男女のシンボルマーク…トイレが見える。帳と私が引き寄せているという効果もあり、通路を這う音、何かの声、そして宙に浮き魚のように自由に泳ぎながらこちらに向かって来る呪い。
私が呪詛師に狙われたり、死にかける事が無かったのならばここで虎杖に左右に手分けして呪いを片付けよう!とか提案していただろうけれど狙われ、何度も死にかけ、むしろ死んだ身ではそんな提案を口にした瞬間に悟に「ちょっと話し合いしよっか?」と身体に分からせモードをされる。