第26章 だから師走というんです
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「着きました、こちらです」
伊地知がそう言って停車した車。虎杖からまずドアを開けて車内から飛び出し、続々と車から降りていく。人通りの少ない通り。私と虎杖、そして背後に悟が居て大きな建物を見上げた。
伊地知が帳を降ろす中で私達はそこそこに劣化した四階建てのビルをちら、と虎杖を見てから見上げる。
「廃ビル…元ホテル……って」
『(ラブホじゃねえか…)』
思っても口にしないけど。まだまだ十代である虎杖がごくり、と固唾を呑んでいる。ネオンの看板だっただろう、劣化して割れた休憩コースだとかの簡易的なプラン。ハートの散りばめられた背景がそれらしい。隠すつもりのない潔ささえ感じる。
落ちきった帳。辺りは宵闇に包まれて止めた足を進めようと虎杖の肩に手を置いた。
『……じゃ、行こっか』
「……うん…」
過去に見知らぬ男女なり同性なりが致してたホテル、現在進行系で使用中ってわけじゃないんだし。いくら18歳未満はお断りと書かれていてもこっちは任務…お客の居ないただの廃ビルなんだ、ちゃっちゃと仕事を終わらせてしまおうと虎杖を急かした所で「オイオイオーイ!」と口を挟む人物が一名。
「ハルカ~、ソレ、その言い方だと誤解が生まれるヤツー!」
『……ちょーっと黙ってようか?先生?おくちにチャック、だよ?』
明らかにスネてんなー、という表情が見て取れる。口を文鳥みたいに尖らしてんじゃないよ…!
気分を切り替えるのが早い虎杖。さっきまで少し緊張ってか尻込みしてたホテル(旧)に今度はわくわくした表情になってる。既に入り口のガラスが割られているからドアを破壊することもピッキングする必要もない。ただのアルミの枠だけとなったドアをくぐって、靴底でガラスの破片を踏みしめながら中に入っていく。その後に私も着いていけばしっかりと背後から悟も着いてきていた。