第26章 だから師走というんです
『はよー』
「はよー、寒いわねー」
近くにやって来て声の届く範囲から呼びかければ、皆が反応する。それぞれ自身を抱きしめるように、寒さに震えて待っていた。
「……ハルカと一緒だと遅刻しないんですね」
「おはよー皆!恵ぃ~…それ僕が遅刻常習犯みたいな言い方じゃ~ん、僕そこまで時間にルーズじゃないよ?」
『えっ自覚なかったの?常習犯だろ』
こちらを見て真顔になりスンッ…と静かになった所で、切り替えるように笑顔を浮かべた悟。
「見て見て~皆っ注目ッ!見てッ!ほら見ろや!」
巻いているマフラーの下の方を両手で摘んで見えるように刺繍をチラつかせ始めたので私はそれを両手で隠す。小学生か、瞬足を買って体育の時間、見て見て~瞬足~!って皆に見せつける男子か。
私が手で隠そうともすっ、と下げ、右にずらしまた上げる。くっそ、そうやってムキになって見せようとすんじゃない!
『ええい!そこにアップリケ着けてやろうか!?ダッセーやつ!幼稚園児専用のデザインで隠してやる!』
「……とまあ反応からお察しになるようにハルカから貰っちゃった!少し早いクリスマスプレゼント!良いでしょ、良いでしょ~欲しい?欲しいよねっ!ンッフー…!でも欲しいって言われてもあーげない!」
『うっぜえなこの人……あんまそういう風に人をイラつかせるような事繰り返してると飛行機とチューリップのアップリケ着けてやるかんな…?』
……何日も掛けて結構苦労したから冗談だけど(やり直したいのはある)。
自慢もこれで終わるだろ、と思えば誰も聞いてないっていうのに、私が購入した時の話から「第一章…、」と長話モードになってきたので心に決める。盛り上がってるのは悟だけです。
三人を見るとまたか…という表情で並ぶチベットスナギツネみたいな顔してる。どうもすみませんね、この暴走状態じゃ痛みなしに優しく暴走を止める事なんて出来ないんだわ…。
ぺらぺらと舌を回してる絶好調な悟をこのまま放置してたら実家に帰った件とかも話されるな…、と私がこそこそ刺繍をしている話を始めた所で悟に向き直る。
『いつまで話してんの、これ以上話したらサイドバスターすっからね?』