第25章 気分はホワイト、時々ブルー
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家の鍵は持っていた。けれども家のチャイムを押して玄関で待つ。
ぶるぶると凍えそうな体を抱いて暫くすればドアの内側に人影が。
開くドア、目を見開く私の父。
「──ハルカ…?」
『うん…ただいま、』
連絡も無くいきなりではあったけれども、私の突然な帰宅に父は大層驚いていた。私をじっと見て固まって、「どうし…いや、」と聞こうとして踏みとどまって。
全然会わなかったってわけじゃないし、連絡もしてた。でも死んでた…寝たきりの状態だった時は一切の連絡をしてない。だからって死んでました!なんて言えない。この事については呪術師と非術師という壁が有る限り父や兄には伝えることの出来ない秘密となった。
軽い荷物で、きっと怒った顔して泣いてただろう目元の私を見、父も言葉が見つからなかったんだろう、大きくうんうん頷いて追求する事なくただ家へと手招きして、「おかえり」と笑っていた。
深く理由は聞いてこないのはありがたい。ただ時間も時間、「メシは食ったか?」と聞いてきたので首を振れば、バカ正直に私のお腹が鳴った。父はその大きな返事に声を上げて馬鹿みたいに大声を上げて笑っていた。
「鍋だからよー、ちょうど良いや!俺も食うとこだったんだ。やっぱり鍋っていったら人と食うのが一番だよな!だからハルカ、お前も一緒に食べろ!」
寒いからか皆考えるのは一緒。実家も鍋だった。
ただ、私と悟が食べる予定だったのはきりたんぽ。私の父が食べるつもりだったのは湯豆腐…もどき。しゃぶしゃぶとも言えるかもしれないしとにかく好きなものを突っ込むスタイル。どうせ酒のつまみって感覚の晩ごはんだ。
以前にもそれを、父が夕食当番の時にやってたから懐かしい。母が倒れて入院しがちだった、冬のある日を思い出す。
はあ、とそんな遠くもない過去を思い出して私は父を見てため息を吐き、そして懐かしさのあまりに笑った。
『……まーた野菜少なめにして好きなものばっか入れて。母さんに怒られるよ?墓前にチクっておこうか?』