第25章 気分はホワイト、時々ブルー
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こっそり始めた刺繍も悟が居ない日や帰りの遅い日を見計らい、手こずりながらもなんとか終わらせた。もう後はラッピングだけ。今度の買い物に行った時に買ってこようって考えてる。どんな風に包もうかなあ~…って。プレゼントって貰うのも嬉しいけれど、あげる側のこういう選ぶ時とか作る時、ラッピングしてる瞬間と渡す瞬間・渡した反応も楽しいんだよね。
出来たてのマフラーを手に持ち、もみもみとその肌触りの良い生地を確かめて、深い紺のふわふわのマフラーのその片方の端を見る。銀糸のSatoruGojoの筆記体が素人ではあるものの上手に出来た気がする!いい、いいぞ、これは!マフラーの端を両手で広げて眺める。照明で角度でキラキラして高級感も出たのでは?
くるりとその刺繍の後ろ面を確認した。
『後ろは……アッ見ないどこ!』
それはもう、機械だとかプロだとかなら流れるように右から左へ、上から下へと上手に刺繍しただろうに私が一度縫った後はなんか違うな…刺繍が薄いな……?と追加するように刺繍をしていた。だからか表面は綺麗に出来たのだけれど後ろはちょっと歪。もう、素人丸出しです、はあ…。
これ以上手を加えたら逆に良くない。渋々ソーイングセットをしまっている時だった。
がた、という音。放課後に間に合わなかった悟が帰ってきたらしい物音が聴こえる。
やっべ、針はしまったけど糸、糸…!
多めに出した糸をくるくると巻き、しまいこむ。ああ、あと大事なマフラーも!絶対にまだ見られちゃダメ!急いで畳んで袋に突っ込み、いつも隠してる場所へ…、と衣装ケースの奥にガサガサとしまう。それと同時にドアが開いた音。
「るんるんるーん!さっとるんでーっす!帰ったよー!」
玄関からの声と同時にさっ!と引き出しを押してしまいこみ、見られてないから大丈夫だ、と悟の元に急いだ。
玄関には上下黒ずくめの服にグレーのマフラーを巻いてる悟が居る。寒い中、任務でご苦労さまだ。部屋も暖かいから後はふたりで過ごすだけの一日の終わりよ。
にこ、と笑って彼を迎える。アイマスクの下の口元も柔らかく弧を描いた。