第4章 乱心、暴走
25.
ガンッ!
カウンターの机に乱暴にジョッキを置くと重量級の音が鳴る。中に残る氷とあと数口分のハイボールが溢れる手前まで揺れた。
『ッカァー!──ちくしょうっ!』
その重たいジョッキを持ち上げてまた数口私は飲んだ。
「ペースが早すぎる、アルコールの分量だけ水を飲んで下さい」
一気に飲んでいる私の側に水の入ったグラスを七海が右隣の席から指先で押して勧めてくる。そんな七海も片手にウイスキーのロックの入ったグラス。
私の左の家入は注文したビールを待ちながらつまみの枝豆を指先でぷちっ、と出していた。
「七海、今日は飲ませてやってくれ、いや今日も、というべきか……?」
『酒は命の洗濯だと誰かが言ってましたし…あれ、酒は人類の至宝だっけ…あれ、違ったっけ』
「そんな事言う人が居るんですか……?」
重たいジョッキを持ち上げ残りを呷る。氷ばかりが残り、メニュー表を眺めた。次はどれにしようかな~っと。
『すいませーん、シャンディガフ下さい』
「まさか私に相談して数分後、やって来た五条をすぐに振るとは思っていなかったよ」
カタン、と眼の前に出される追加の酒。
つまみの唐揚げに着いていた、誰も絞らなかったレモンをそこに絞り、人差し指を突っ込んでくるくると回す。
そして飲んだ。
『……ははは…、』
「明日も仕事という事をお忘れなく」
「二日酔いが確定だな。一応飲み薬でも用意はしとくか」
半分程減ったグラスを見て、結露を親指で拭う。綺麗な黄金色がくっきりと見えている。
家入の方へ向いて、ふすっ、と鼻で笑ってしまった。
『……まさか、泣いちゃってる時に来るなんて思いもよらなかったですもん。来なかったらまだ少しだらだらと続けてたかも……ある意味、良いタイミングだったんじゃないですかね~……
次のメニューは…へへっ、サムライロックにしよー…すいません、サムライロックくださーい』
私の飲んでいた半分残っているシャンディガフを家入は自身の元へ引きずられ、飲みすぎだと言ってそれを飲まれていく。
私もだいぶ飲んでるけれど、両側の人物も結構飲んでいるハズだ。
七海が寄せてきた水を私は口直しに一口だけ飲んで、からあげを割り箸で摘んだ。
「私はあいつに忠告したんだけれどな。どちらかが本気だと痛い目みるぞって」