第24章 ハロー、ニューワールド
なんで首を温めるのに万以上いくんだ?と首を傾げそうな、でも何故かこれが良い!って気持ちで衝動買いしてしまい、後戻り出来ないようにソーイングセットまで買ってるんだから、失敗は許されない。
というか、悟の居ない今のうちにめっちゃ進めておかないと…。
シンプルにレイアウトは筆記体、カラーは凝った何色ものではなく、背伸びしすぎない一色にしておこう。簡単すぎるひと手間かな、と思いきや結構集中力がいるから時々携帯が気になってとぎれとぎれの集中力で刺繍を進めていく。
まあ……任務に同行してるんだしすぐには帰ってこないはず。通常の単独の任務だとすっごい勢いで帰ってくるからな、悟。
『………』
ちく、ちく…ちく。静かな部屋で針が生地を貫通する僅かな音を聞きながら調子が良くなってきた頃。
ブブブ、という音にビク、と体を跳ねて反応する。丁度高まってた集中力が途切れ、左手の人差し指に突き刺す刺繍針。文字通り鋭い痛みが走った。
『いっだぁ!』
すぐに引き抜き、小さな傷からじわじわと溢れる赤を見て治しながら携帯を取る。あーもう、めちゃくちゃだよ…。ティッシュで拭き取ればもう傷は無くなっているけれど。
片手で携帯を耳に当てて、もう片手でソーイングセットの小さな針刺しに刺した。
『はい、ハルカです』
"あ、ハルカサン?俺です、猪野です、猪野琢真です"
自己紹介の三段重ね。どっかで声と名前は聞いたな、と思いながら『はい、』と相槌をして。
"骨逝ったみたいなんで医務室来てもらっても良いですかね?"
『はい、今寮に居るんですぐ向かいます、ちなみに骨はどの辺りの負傷で?』
まだお昼前。悟が帰って来ないだろうけれど立て込む事も考えて軽く見えないように隠し、バタバタとコートを羽織る。それから多分、今日忘れていった昨日私が借りた悟のマフラーを巻いて。
電話の向こうの猪野はとっても元気そうにケロリとした口調で続ける。
"鎖骨とアバラです!"
『(元気だな…)五分以内に着きます、待ってて下さいね』