第24章 ハロー、ニューワールド
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『よーし、やるか~…』
悟に見られないようにこっそり隠しておいたマフラーを収納ケースの奥から引っ張り出す。それからソーイングセットも。
今日から三日程硝子に休みが与えられて、私が代わりに医務室を全時間帯対応する事となった。それは私が復帰した事でようやく硝子も休める状態になったからって事で。私がダウンしてる間、彼女はずっと通常の治療の他、私関連の事もあったんだろうって、今日は本当なら一年は任務が入っていたんだけれども私だけ高専にお留守番って事になった。
悟も含めて皆任務かあ、とちょっとだけ良いなって思うけど皆に迷惑を掛けてた事、筋力も落ちてる事。ついで程度だけれど生理痛もあり丁度良かったのかもしれない。昨日買った暖かい服装で身を包み、呼び出されたらいつでも医務室に行けるようにして部屋にこうやって待機している。
悟も居ないのならば……、と部屋の食卓、椅子に座ってテーブルには連絡が来ればすぐに出られるように携帯を置いて。昨日買ったマフラーの端に下書きを入れ、ちくちくと刺繍を始めた。刺繍は悟の名前を入れるつもりで少し昔に家庭科の授業で教わった縫い方を思い出す為に動画を見ておさらいしながら縫い始めた。
何か物を普通に買ってポン、と渡すのは簡単だけど身につけるものや普段遣いの私物が無意識なのかお値段が目が飛び出るようなものを買ってらっしゃる。私が何か物を買ってきた時に別に文句も言わず、また落として壊した時も別の物買えば良いじゃん!と悟は軽く言ってるけれどこの金銭感覚のズレはどうしようもない。
なんていうか…、買ったものを渡せばそれまで。かといってハンドメイドをいちから綺麗に作るのは出来るのか?と自信もない。時間もない。せめて失敗しないようにって簡単そうな刺繍を選んだ。
……実際に始めるとそう簡単ってワケじゃないんだけど。
『この、カシミアのマフラーを廃棄にしないようにしなきゃね……』
少しスカスカになったその隙間をごまかすように縫って。
……千円程度で買えるようなマフラーなら実家にあった。でも私が悟にクリスマスプレゼントとして渡すつもりのこれは去年使ってたそこそこ良い私のマフラーがダースレベルで買えちゃうお値段。