第24章 ハロー、ニューワールド
その手でむに、と悟の両頬を摘んで、「アイタタタ…!」と騒ぐ悟をそのまま押し退け、私はベッドから降りた。暖房が部屋を暖かくしてるとはいえ降りた床はちょっとひんやりしててつま先立ちで歩く。
背後から慌ててベッドから降りてしがみつくコアラ…じゃなかった、悟が後ろからホッカイロしてる。あ、あったかくてちょっと良いかも。
……って。
『このふたり電車ごっこみたいなの、動きにくいんですけどー。離れてくれません?』
言っても離れないのだと分かっちゃいるけど、口に出せば当たり前のように「やだ」という笑みを込めた拒絶が返ってくる。
「僕は離れたくないからオマエが頑張って動いて下さーい」
『あ゙ー…邪魔ァ!』
後ろからガニ股でぺたぺた歩いて着いてくる離れない悟。洗面所にまずは行こう、と進んでいき。やっぱりこのままの体勢では困難がある事を知る。鏡越しの彼を見てその目の前の鏡に話しかけた。
『私が顔洗うのに屈んだら頭、ゴンッ!ってぶつけるよ、悟』
「離れたくないのにキミってば旦那さんを引き剥がすのかい?ええっ?」
『文句たれぞうだなあ、この29歳…、あっ忘れてた。誕生日おめでとうございました!29歳児!もうちょっと大人になってねっ!』
昨日なんだかんだでおめでとうって言えてなかった。一日ズレてしまったけれど、せめて今日ケーキでも買ってきてあげよう。
名残惜しそうにゆっくり離れて歯ブラシを手に取る悟。彼がくっついてた部分が少しずつ熱を失い、ひんやりと感じる寂しさ。
鏡越しに悟が私に不貞腐れながら話しかけてる。
「おめでとうございましたて。めっちゃ過去形じゃん。キミって誕生日を過去にする女?」
『うっせえなあ……今日、夕方に買い物に行く時にケーキでも買ってこようか?』
「えー?うーん、しょうがないなあ……ほほひふぁひふぇふぇーふぇンうぇふぁふぁンひへふぁへふ」
歯ブラシを咥えてからの言葉に何言ってんだか分かんない。
支度を終えた時に聞き返せば既製品で我慢する、と。そういえば私、お菓子作りした時に誕生日にケーキ作るとか言ってた。今それを聞いたからって今日作ろうにも失敗する。作れても売られてるスポンジケーキにクリーム塗ってデコレーション……事くらいかな。これじゃあクリスマスにも慌ただしくて間に合わないな、と今月後半も心にどこの店舗のケーキにしようかな……と既に考えてた。