第4章 乱心、暴走
五条は頬を掻きながら釘崎を見て、そしてドアの隙間から見えるふたつの顔を見て家入へと視線を上げた。口元を曲げて。
「内容が内容なだけに流石に教え子の前でいう事じゃないんだよねー」
「おい五条」
「あー、うん。一線は越えていないよ流石に。だって実家の婚約者に襲われ掛けててさあ、そういうのは嫌なんだろうって」
「そんな事あったの!?」
「野薔薇ー、あとドアの近くの子猫ちゃん達~、18歳以下はお帰り下さい!年齢制限コンテンツですよ」
ぼかしても少しずつ暴かれていく、今までの事。
悟さんと呼んでいた彼女に、悟と呼ばなければキスをしたという事。
彼女の部屋の合鍵を作った事(事前に壁を加工して一繋ぎにした事はこの場には出ず、しかし家入は知っている)
その他とりあえず行動中に触れたりした。彼はこれらの行動を子供がしない行動=大人の行動、即ち大人らしい振る舞いだからと続けていた。確かに本気で彼女は拒絶はしなかったのだがそれが五条は"OKなんだ"と判断していて事態を悪化させている。
それにその行動が楽しく、なんとなく彼の心を満たしていた。五条はハルカに触れ、近くに存在する事で不思議と癒やされていたのは頭の片隅で理解している。そのなんとなくの意味を深くは考えていないのだが。
行動を大体理解した椅子に座ったふたりは軽蔑の視線を向けている。
「度の過ぎたストーカー素質のある、表面上って言葉が要らない恋人じゃないですか、それ」
「野薔薇ドイヒー、僕はそういうつもりじゃないんだけれどなー」
「そういう、て?五条、あんたはどういうつもりなんだ?」
「どうって……ねー?ねっ?」
この時点でもまだ気が付けず、五条は正座を崩してあぐらをかく。膝に肘を着いて頬杖を突いて彼はうーん、と考えた。
決して頭が悪いのではない。良いのだ。しかし残念な事に彼は人を好きだと思っても恋愛感情での好きという自覚をした事が無かった。その自覚を出来ない今、考えて浮かぶことは。