第24章 ハロー、ニューワールド
ほんのりと悲しそうに見えた微笑みに、僕はツッコんだ。
「うーん、ハルカさん?ハロウィンは終わったんだけど何の悪戯かな?トリック・オア・トリート、お菓子はあげるから悪戯は程々にしてくれないかな~?」
『…は?』
このまま何も知りませんって貫いて、僕が食べたらその瞬間からあのトラウマコースだ。僕の初恋の記憶を封印されたように答えのない何かを求め続けるようになる。強力だった、彼女の呪いは。
ハルカはすっとぼけて首を傾げてる。
……知らないフリなんて今更なんだよ。
「まずさー、僕とハルカとのお話だから。お母さんは帰って貰っても良いかな?」
『……なんの話?』
「とぼけちゃってー……僕に血を口にさせて何かの記憶を封じようとしてんのは分かってんだよ」
暖房は着いてるのに冷たい空気が部屋に流れたような気がした。少し怯えたような彼女の背が少しピンと伸び、彼女からもう一つの呪力がフッ、と消える。これでふたりっきり、話し合いが出来る。
出来るだけ笑顔で接しようと食事を並べたまま、お互いに手を着けずに顔を見合ってた。美味しそうな香りはするけれど、食事どころじゃないからな、この状況は。
『記憶ってなんの?』
「覚えてない?領域内に留まりすぎて忘れちゃった?僕の目はね六眼、人よりも良く見えんの。術式を使う軌跡も、呪力もはっきり見えるからハルカがお母さんを降ろした所も僕の食事だけにオマエの血が入ってる事もお見通しなワケ」
反論は無い。少し視線を落としてゆっくりと僕を見上げた彼女。決意というか目に少し力が籠もってる。
そこまでしてなんで僕のなにかを隠そうとしたんだろう?と気になる。
「……ねえ。僕の何を封じ込めたかったの?」
そっとハルカは口を開く。悲しみか怯えか…少しだけ震えながら。
『私の事、全てを悟から消したくって……』
──さっき、僕が何食わぬ顔でミネストローネを口にしていたら。
それは僕にとっては恐ろしい結末だった。絶対にあってはならない事、それをこの子はやろうとしてた。
僕から彼女への笑顔がこの時点で消えてしまった。多分良くて真顔。悪くて怒りを露わにしてる。
「……は?なんでオマエの事を記憶から消すの?理由は?」
ぽつり、ぽつりと話す声の小さな言葉は、今までの僕の好意での行動についてだった。