第24章 ハロー、ニューワールド
230.
浴室のドアの開閉音。彼女が出てくる音。
久しぶりのこの部屋に僕以外の存在や生活音がする事に嬉しくなる。いや、元々この部屋はハルカの部屋なんだけどさあ…。やっと元通りの日常が過ごせるんだと思うと自然と表情も緩むもんだよねえ……。
眠っている所ばかりだったけど、これからは大好きな彼女の笑う顔や怒る顔も見られる。話しかけてもちゃーんと言葉が返ってくる。眠る時はおやすみと言えばちゃんとおやすみって返ってくるだろうし、起きた時は僕を眠そうな目で笑いながらおはようって言って。それから出掛ける時はいってらっしゃいに行ってきますのキス。それはもちろん帰ってきてからも。ちゃんと、僕が言えばレスポンスが来るという幸せ。
以前のアタリマエな日常がこんなにも幸せな事だったんだって、ハルカが死んでしまってから…眠り続けてから頭ではっきりと理解して、取り戻せた日常に僕は本当に嬉しくってさ。最高の誕生日だと思う。本当に本当に、最高のプレゼントとして彼女が目覚めてくれた事が僕は嬉しい!
部屋着に着替えたハルカが肩にタオルを掛けてうろうろとしてる。多分、ドライヤーかな。久しぶりの生活に戸惑ってる様子がちょっと小動物みたいでさ!可愛いんだ。
僕は様子見を止めてキッチンから少し離れ、ハルカの元へと近付いた。僕を見上げる彼女。それだけでもああ、生きてるっていいよねって嬉しくって頬が緩む。もっともっと手を差し伸べるような事がしたくて。
「ドライヤー?乾かしてあげようか?」
『……いい、自分でやる。あっ、』
湿った髪を振って拒否した後に、キッチンの方を見てるハルカ。お腹でも空いたのかな。まあ、寝てる間はお腹一杯になる事なんてなかっただろうし、彼女は以前よりも体重が落ちてるしね……。
ふふん、と僕はひとり腕を組む。本日の五条悟シェフは少ない材料でなんとかディナーを作ってるところでしてね。どやっ!
「部屋にある在庫でちょっとミネストローネを頑張ってみてるよ。他少々。ハルカが居ないとやっぱりちゃんとした食事作ろうって気が進まないもんでさー……明日、一緒に買い物行かないとね」
まともな食材なんてほとんどなくって。
傑のもしもの為に備えろってこういう事も含まれんのかもって思ったりした。
ハルカがほんの少しだけ微笑む。