第24章 ハロー、ニューワールド
私は悟の多くの時間を費やさせてしまってるって改めて思い知った。死んだ後だってそう、ずっと心肺蘇生をしたんだって。どれくらいの時間を掛けたんだろう?二十分?三十分?
私を諦めないでくれていたって事はそりゃあ嬉しかった。今もこうして生きてる。生きているって喜びは計り知れない。悟には助けてくれてありがとうって感謝してる。
確実に死んでたのに何事も無かったように立ち、どこにも痛みを感じてない。死んだと思っていて生きたかったからこそ、本当に生きてたって事実は嬉しかった。
でもそれは私だけが得していて、京都の人達も東京の皆も、悟も……迷惑を掛けて時間を割いてまで蘇生した価値があるかって話。
何度も生きたいって願い、生きていた喜び。
でも、それを悟の事をあんなに空元気で痩せて、多くの休めるだろう時間を消耗してまでの事だというのは……。
マイペースでいろんな人を振り回してた人がひとりの女に自分の時間を突っ込む。悟らしくない、してもらった私からすればありがたいとかを通り越してる。そこまでして欲しくなかったよ。
彼には迷惑を掛けたくない、あんなになってまで一緒に生きていく価値って私にあるのかな…。久しぶりに明るい世界を目の当たりにして、視界に入った時の悟の印象が離れなかった。痩せていて疲れた表情で目元を赤くして泣いた彼の事を。
これからも悟の多くの時間を消費し振り回し続けるのは私は望んじゃいない。
『………』
いっその事……。
『──わたしを …、』
"わたしを見殺してくれれば"……そう小さく呟いた言葉はシャワーの水音に掻き消されて、泡と一緒に排水溝へと流されていった。