第24章 ハロー、ニューワールド
振り向けば、つかまり立ちから歩けるようになった子供を見守る保護者みたいに、側で両手をこちらにいつでも出せるようにしてたらしい、背後の彼は満面の笑みを見せてる。
さて、立てるようになったなら身支度を整えないと。部屋で過ごすのに寝たきりだった時のままで過ごしたくはなかった。まっすぐ衣装ケースの元へと向かう私の背に掛けられた声。
「着替えとか大丈夫かな?僕が手伝う?」
『んー…、自分でする。シャワー浴びて着替えてても良いかな?』
……少しでも私に割く時間は少なくしなきゃ。彼の時間を多く取ってしまっただろうから、今悟は見るからに疲れて少し痩せてる。
ひとりでやれる事は全部しないと。私も悟の事は大事だけれど、彼を必要としてる人が他にももっとたくさん居るんだから、これ以上手を煩わせちゃ駄目だ。
じっと、自力でやりたい意志をもって彼を見上げると頭にぽん、と手が乗って優しく髪を乱す。
「うん、どーぞ。無理そうなら僕の事を呼んで、すぐ駆けつけるから」
『分かった。でも本当に大丈夫だから』
時間的に皆学校を終わらせたくらいの時間。間に合っただろうにホームルームの時間にも行かずに私を優先してたみたいで……。早くシャワー浴びて着替えて、せめてご飯くらいは作ろう。
着替えを抱えた私は浴室へと向かった。
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『……ふぅー、』
体に着いた泡を温かいシャワーで流す。大して大きな汚れとか、たくさん垢が出るとかそんな事なくて……なんとなく気が付いてた。
約一ヶ月半の期間、悟は私を世話してた。
毎日必ず…というのかどうかは実際は知らないけれど。丸々一日中とは言い切れないけれど少なくとも今の私が気が付けたのは、爪がとても丁寧にケアされてた事、服も脱いだ瞬間から肌から良い香りがした事、肌はベタつかずサラサラとしてた事。髪も本当に寝たきり状態だったの?というくらいに手入れがされてた事。硝子やマリアが丁寧にここまではしないと思う、彼女らなら最低限の事だけだったと思う。
思えばベッドサイドの化粧品とか。洗顔する前に一応、まさかと思ってクレンジングしてみたらビンゴだった。化粧までされてた。