第24章 ハロー、ニューワールド
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赤と橙の…カシスオレンジっていえば良いかな。カクテルを混ぜ合わせたような手を伸ばそうにも遠くて届かない、概念の世界の空……春日の死者の空間、上空。
言葉に背を押されたように、諦めながら領域内での死者としての生き方を中断して、もう一度生きようとする。領域を解除するんじゃなくてあるべき場所に帰ろうとする気持ち。
"今のありのままの私を受け入れる"という事。頑固にもここに居続けるんじゃなく、例えば激流のような流されそうな水の中で抵抗を止めてそれに己を許そうと、たゆたう水の流れに任せるようにしていれば、その緋色の空はようやく時を流していくように暗くなっていく。
立っていた身体が柔らかい壁に押し付けられているような。重力が変に働いている、と思えば触れた掌や指先は布のような感触を覚えてる。前方からも着物とは違う、柔らかくも温かいものが張り付いている……片手が何か生き物に擦りつかれている。温かくて優しい生き物。なんだろう、この感覚は。なぜか懐かしくもあった。
暗いんじゃない、私は目を閉じてたんだ、と気がついた瞬間に、変な感覚は一気に身体は仰向けになっているんだとも理解した。
『…っ、……う、』
この少し明るいような夜の暗闇は瞼が下りているから。ゆっくりと開けば眩しい光景に目を少し細める。
久しぶりに明るいものを見た。とてもとても長い夢を見ていたような感覚と重い体。重い、といってもたくさん水の中で過ごしてから陸に上がったようなあの感覚に似ている。
重い瞼を開けたなら目の前にあるのは何度か体験して見慣れてしまった天井。間違いない。私は今、この瞬間に領域から戻って来れたのだと。肉体がどうしてか無事で、また生きる事を許された事を知った。
『………生きてる』
広い空間じゃない、密室での声は僅かな声量でも部屋内に籠もる。
ガタッ、という音がすぐ側で聴こえた。左手の"何か"がぎゅっと私の手を拘束してる。握るような、掴む…ような。
その音が聴こえた方向へと横たわったままに首を向けた。