第4章 乱心、暴走
「どうしたのハルカ、何かあっ──」
流石に追いつかれて、目の間に立たれちゃった。
黒い胸元以下しか私には見えないけれど、揺らいでは瞬きで黒尽くめの輪郭がくっきりしてる。
どういう顔をしてるのかなんて今の私には見れなかった。見るのは無理…、後ろめたい。私は泣きじゃくりながら覚悟を決めた。言うならばもう、今すぐが良い。そんなタイミングなんだと。
私の正面から両肩に、悟の手が少し乱暴にタンッ、と乗せられた。
「ハルカ…?」
『その、…うっ……、悟との表面上の、恋人っていうの…っ、もう私、嫌だから…!終わりにして!』
「……は?」
つまりは、別れてという事。
袖で涙を拭き、乗せられた手を払う。いつもよりも置かれた手は力なく簡単に払えて、自室へと駆け出す私をもう悟は追っては来なかった。
追われる事を期待していたんじゃない。けれども、部屋に駆け込んで締めた玄関のドアに背を凭れて、滑り落ちるようにその場で泣いた。
自分でも分かっていた事だったから。
気付かないように、じゃない。本当は気付いていたからこそ、我慢していたからこそ傷付いていてその限界が来た。
知ってるよ。認めてあげる。隠しても隠しきれない自分の気持ちを。
──私は、"五条 悟が好きだった"
それが偽りの関係の中で生まれたものだからこそ余計に辛かったんだ。
その表面上の中で過ごした数日間で好きになっていたから、私はいつかやってくるその終わりを早めただけ。自分で幕を降ろしただけ。
私が悟に"好きです"と伝えれば悟は本気にしていたのか、と。遊びなのに好きになっていたの?だとか笑うんだろうな。そんな言葉や笑われる事がなによりも恐怖だった。
なんだか胸が凄く苦しいな。私の中に生まれた恋心に自身でとどめを刺したから、その見えない傷が痛かった。
置いてきちゃったツカモト、今抱いてたら確実にボコボコに殴られていると思う。
『ぐすっ…、』
壁に手を付き、立ち上がってゆっくりと部屋にあがる。顔を洗おう、さっぱりして化粧を直して、何事も無かったかのように事務に行かなきゃ。