第4章 乱心、暴走
ぐず、と鼻を啜り、手で涙を拭うと、家入はガタガタと音を立てている。箱ティッシュをぼすぼすと数枚引っこ抜いて私の顔面に押し付ける家入。
「な、泣くな泣くな、あんなヤツの為に貴重な涙を流すんじゃない!やりすぎとは思っちゃいたけどさぁ……あーもう、ほんっと…五条。あの馬鹿…」
『うっ……ううっ…ぁっ、』
よしよし、と肩に私の顔を押し付けて抱きしめる家入。背を何度も擦った。
私もそんな優しさに甘え、ぎゅっとしがみついてわんわんと泣く。いつぶりだろうかというくらいに声を上げて泣いた。
「ハルカ、でもな。そういう話はひとり抱えず、人に相談…そしてちゃんと本人と…、」
ドアの向こうから、何やら騒がしい声がする。
"恵、なーにしてんの?"
"馬鹿っ"
"怪我したなら入れば良いじゃん、今ならハルカに……──"
抱きしめる家入は片手を私から外し、すぐ近くでかちゃかちゃと物をいじる音。
ガラッ、と開けられたドアの音……。
「おっ待たせー、ハルカ──」
「空気読め馬鹿!」
スッ、と白衣が擦れる音。埋めていた顔を持ち上げて振り返ると、ペンケースが悟に投げられたのか、一度宙で止まって下へと落ちていく。
かしゃ、ボトポト…カシャンと文具達が落ち、硬直する悟と背後に一年の伏黒。頭から血を流している状態。
背を擦る家入は、背から私の頬へ手を当てる。両手で頬を優しく挟まれた。
「伏黒は私が治療しとくからハルカはこのまま事務の方に行ってきな。確か七海が居たと思ったから、私から七海にちょっと遅れるって連絡しとく……トイレなり部屋なりで落ち着いたら行きな」
『………ん、ありがとうございます…っ』
パーカーのチャックを上げ、口元までが隠れる。袖で目元を隠しつつ悟の横を通り過ぎて行く。伏黒に一度頭を軽く下げて私は飛び出した。
後ろから家入の「五条、ハルカに付き纏うのマジで禁止!追うな!」という叫び声と、ドアをガンッ、と乱暴に開け放つ音が聴こえた。