第24章 ハロー、ニューワールド
私の両肩に手を乗せた母。そのまま黙って顔を私の胸に埋めた。ひぐっ、と泣き止めない私はしゃくりあげてそんな母の背に手をそっと回して。
そして少しして母は離れ、私を正面から黙ってじっと見ている。なんだろう…?
『……どしたの?』
母は私の肩に両手を、その両手を涙で濡れた布越しに私の両頬へと触れる。
「顔、見せて。ハルカ」
『え、やだよ。ぐちゃぐちゃだし……その、泣いてブッサイクだし』
ボロボロに泣いて、丁度ここに来たときからある付属品でありがたく隠されたままだから気にしなかったけれど。その布を母は顔を挟んだ片手でおもむろに持ち上げる。
その瞬間の持ち上げた微風が涙のまだ乾かない頬に触れて涼しい。じっと覗き込む母、その後ろから伯母の鶴と亀達も覗き込んだ。
「……やっぱり」
『…なに、泣いてちゃ悪い?』
「そうじゃないの、ハルカ」
ちょっと自分で持ってて、とでも言いたいのか、私の片手を掴んで布を額辺りで押さえさせる母。伯母以外にも鎹や他の一族達が覗き込む。人の泣き顔を見に来て何なんだ?失礼なやつらめ……、と気分は良くないのだけれど、そんな気分を害した私を他所に母は目の前で自身の布を持ち上げた。
「ここには鏡も水も無いし、皆顔を隠してるから気付かなかったんだけれど。ハルカ、私の目を近くでよーく見て?」
ずい、と近づかれ、その勢いで思わず一歩慄いて。母の言う通りにゆっくりと自分の足で母に近付いた。
顔面蒼白、母の目は瞳孔が広がってる。顔を近付け、その母の目をじっと見ているうちに母は追撃する。
「ハルカはまだ、血の通った肌をしてる。瞳もまだ正常、さっき抱き寄せて分かったのがきちんと心臓の音がした」
『……それが?』
「分からない?」
私の空いた片手を手に母は自身の胸に押し付ける。触っているのに体温は無い、そして……心音すらも。もう片手で自身の胸に触れる。誰でも分かる違い、私の身体ではある掌から伝わる熱や鼓動が母には無かった。
「あなたは生きてるよ、ハルカ。まだ、本当には死んじゃいない」