第23章 突然ですが、さようなら
片手を伸ばし、優しく前髪を撫でている。
眠るハルカは一体どんな長い夢を見ているんだろう?
それとも悟が言う事が正しいのだとしたら、死んでいると思っている彼女は今どこを彷徨っているんだろう。
悟から小さな決意の言葉が漏れ出す。
「僕はハルカの事、絶対に諦めない。
目覚めるまで何年掛かってもずっと待つよ……色んな約束してるんだ、男として彼女のわがままも聞いてやらなきゃ。いっつも僕のワガママばっかり聞いてもらってたしね…」
「まあ、ずっと悟のワガママに振り回されてたからね、ハルカ……」
春日の生き残りを高専に連れ帰ったのは良い仕事だけれど、交際に関わることは悟の我儘だと思う。実際に彼女自身も悟を受け入れ結婚までこぎつけたのなら結果オーライではあるけれど。
ははは…、と私と悟の笑い声が重なる。その短い笑い声の後だった。
「僕のワガママをまた聞いてくれるなら僕の誕生日プレゼントにハルカからのケーキが欲しいなー…。失敗作でも良いからさ。ずっと、作ってる姿を見たりくっついて頑張ってる所を堪能してさ~…。それが無理なら眠ったままでも良いから、少しでもいいから笑って欲しいな……」
泣きそうなくらいに少し弱々しい声で呟き、鼓舞するように勢い良く立ち上がる。「よし!」と気合いを入れて私に片手を上げた。ああ、分かる……悟の空元気だ。
「任務に向かいながらオマエから貰った弁当食うよ、傑も毎日僕んとこ通って無理すんなよ!」
「ああ。悟程じゃないけれどね…、」
空元気のまま、弁当と飲み物の入った袋を手に取った悟は、床に散らばった個装されたマドレーヌをちゃっかりといくつか拾い上げて紙袋に入れ、個室から出ていった。
片付けるか……、と部屋に入った時に驚いて手から落としたものを…、と入れ物を先に取り、個装のお菓子を詰めていく。全て拾い上げてから、きっと悟がまた来るんだろうな、とベッドの側のさっきまで弁当入りの袋が置いてあった、花瓶の側にお菓子を置いて。