第23章 突然ですが、さようなら
226.
『すぐ、る……』
久しぶりに声を出したせいか、少しばかり掠れたような小さな声で彼女は私の名前を呟いた。
「ハルカ…?」
その光景に驚き目を見開いた。そんな私を見てか、にや…と笑うハルカ。彼女はそんな笑い方はしないはずだ、様子がおかしい。状況が分からず私は少しばかり困惑し、手に持ったものを掴む力が失せた。床に、ぼさぼさ、かたん……、と残りのお菓子がぶちまけられ、最後に箱が落ちていく。『あはっ、』と独特で聞き覚えのある笑い方をして脳裏にもしや…ととある可能性が浮かんできた所でハルカが自身の胸に片手を当てた。
『あー…、僕だよ傑。見た目はハルカの身体だけど中身は僕、悟。五条悟だよ』
「確かにハルカは私を呼び捨てにしないし、意地悪な笑い方はしないね……うん、本当に悟、なのかい?」
胸に当ててた手とは違う方、ベッドに上半身を倒れ込ませて寝ている悟の力の抜けた手をかちゃ、と音を鳴らす。手錠の着いた互いの手首、ハルカに掴まれて軽く挙げられる悟の手首。悟の身体は突っ伏して寝たままで起き上がることはなさそうだ。
……ああ、そうだ聞いたことがある。魂の交差する手錠、だっけか。それを倉庫から持ち出して使ったって事か?
どれだけ大切な人であろうともこういった私的な使用方法はいけない。ハルカの身体に入る悟を少し睨んだ。
「……悟、こういうのは良くないよ。勝手に持ち出したろ?」
『いや、以前の任務で回収か破壊かって任務があったから使わせて貰ってんの。こういうのに使わないでいつ使うんだよ…』
「だからって……!」
呪物なんだ。非術師が使う便利な道具なんかじゃない、呪いで出来上がってしまったモノ。同じような効果を持っても成り立ちが違えば他にも隠れた性質を宿しているかもしれない。危険だというのは変わらない。
それを軽々しく使うのはどうなんだ、と責めようにも彼(というか見た目はハルカ)は私の見たこともない、嫌そうな表情をして『へいへい』と態度悪く遮る。