第23章 突然ですが、さようなら
「残り夏油にあげようか?」
ガサ、と箱ティッシュの上を切り抜いた入れ物に入った個装紙に入ってるいくつものマドレーヌ。硝子は変わらず甘いものは好きじゃないみたいだ。はは…、と苦笑いでそれを拒む。
「私じゃなくてこういうのは悟にやってくれ。今日も個室に居るし」
「あいつはハルカが好きすぎるからなー……私はあまり今の五条にはお近付きにはなりたくないね。面倒くさいし。なに、ずーっと彼女から離れられない呪いでも掛けられてんの?」
硝子は「触らぬ神に祟りなし」と呟きながら私へと向けられたその箱にはこんもりとマドレーヌが盛られたもの。おそらくはファミリーパックのヤツ。
片手のマグカップに入ってるコーヒーはきっと悟とは正反対の無糖……ブラック。口の中の糖分を流し込んでるをの見て私は思わず顔をしかめてしまった。そこまでしなくってもさ。
「……っはー。夏油、これ五条に処分させといて」
「処分て。食べ物をそう粗末に扱うのはどうかと……はあ、仕方ないな……」
さっき個室に行ったばっかだし、持ってくか。片手で頭を掻きつつ空いた手でそれを受け取って。悟なら受け取る、それは目に見えてる事なんだけど。
お菓子を運ぶとか子供のお使いかな?という気分で医務室を出て、そのまますぐに個室へと向かった。
ノックをし掛けて……いや、大丈夫か。これはノックせずとも良いな。
「失礼するよー、さと……」
言いかけた言葉は喉元で止まった、個室の中の光景に驚いてしまって。思わず、片手のやわな箱からてんこもりのお菓子がバランスを崩してドササ、と零れ床に落ちていく。
「ハルカ……?」
私の目に映るのはハルカ。ハルカが起きて自分自身の片手を見ていて、顔を上げると私と目が合う。間違いない、ハルカが体を起こしている……。
「ハルカ……君は、君は…、」
……そうだ、悟だ。悟に知らせないと。
彼女の側に居る悟。その悟は彼女が起きたことに気が付かないのか、座ったままにハルカの居るベッドに前傾姿勢で倒れ込んでいた。
……なんだろう、この違和感。起きているハルカと悟、ふたりは何故か手錠で繋がれていた。それも呪力の流れている手錠で。