第23章 突然ですが、さようなら
目の届く範囲であるここは安全だ。だからこそ悟は目を離したくなくてずっとずっと、ハルカの側から離れない。
任務と必要最低限の生活だけ離れて妻であるハルカの側を守り続けてる。それはハルカに呪われたように、何度も守りきれなかった後悔が彼をこうさせてしまったのかもしれないな……。
ちら、とハルカから悟へと視線を移した。
「用心深く、コツコツと信頼出来るもの達で築き上げて来たからね。まあ、京都もそれなりに一部は信頼は出来る呪術師は居るには居るけれどね?」
「……ははっ、そうね」
悟は少し身を捩り、花瓶や私が渡した紙袋の方へと体を向ける。がさ、と音を立て私が持ってきた袋を覗きこんだ悟。
「……いつもありがとな、傑」
「ん?私と悟の仲だからね、これくらいはどうって事ないさ……まあ、きっちり三食摂って欲しいんだけれどね?」
「……今は一食か二食が限界かなー」
「その一食は私が持ってくるものだろ…、全く。ハルカの前にまず自分を大事にしろ。もしもの時に常に備えるんだ」
まあ、今日は元気に話してる方か。悟の顔とハルカの変わりなさを見たから安心して。きっと食事も摂るだろう、一緒にお茶も入れておいたし。
甘いものは自分で買ってくれば良いさ、そこまで自分で出来たら心配無いんだけれどね。
「じゃあ、私はとりあえずこの辺で」
「おう」
「……ほどほどにな、悟」
「ご忠告、ありがとさん、傑」
来た時と同じ様に静かに出て、静かにドアを締めて。せっかくここまで来たんだ、少し医務室の硝子に会っておこう、とそっちへ足を運んだ。
ノック後にガチャ、とこっちは遠慮なく入る。
「失礼するよ、」
「んあ?夏油か」
椅子に座る硝子。その手には個装紙から剥いた洋菓子を丁度口に運ぶシーンだった。珍しく硝子が甘いお菓子を食べてる瞬間だなあ、いつもは食べないはずだったけど……。
背後で静かにドアを閉めて医務室内へと入る。今は怪我人が来ていない。コーヒー片手にブレイクタイムだったみたいで。
「珍しいね、硝子が甘いもの食べるなんて」
「ああ……食べる子がここしばらく医務室に居ないからね。悪くなって食べられなくなる前にって仕方なく食べてたけど…ゲロ甘」