第23章 突然ですが、さようなら
「傑ー…聞いて。ほーんと、何週間前くらいの非術師の連中からの女神様~って崇められるだけじゃなくてさ。呪術師にもハルカが引っ張りだこで困るよ……」
疲れたような声色。きちんと休めていないんだろう。リベルタに拐われた時の悟を重ねる。
「"また"なにかあったのかい?」
うん、と声に出さずただ頷く悟。がっくりと肩を落としてその背中も随分と疲れてる様子だった。視線は私に向かず彼女に注がれたまま。
立ち止まればふわ、と私が持ってきた幕の内弁当の惣菜の匂いがする。そうだ、とベッド脇の白と青の花が飾られた花瓶の隣にそれを置いた。
その動作を見て悟は「さんきゅ、」と呟き頭をぺこ、と下げた。彼女の世話ばかりを優先して、ずっと無防備な彼女を守り続けて……ちゃんと食べてるように見えなくて出来る限り悟の元に私が持ってきてあげていた。なんだかリベルタに連れ拐われたあの時よりも悪化してるような気がする。
ハルカはちっとも変わっていないのかな、と顔を覗き込もうとした時だった。
「……ジジイどもにさー…」
愚痴を零し始めたから、彼女から悟を振り返る。俯いて、思い詰めたような親友はまるで大きな病を患ってるようだ。
「ハルカを貸せ、だって」
眠り続けるハルカになら、好きなだけ怪我も病も吸ってもらえる。上層部に貸し出したとしたらそれこそ、知り合いなどにたらい回しをされ、髪を白く染めて帰ってくる。何をされるか分かったものじゃない。意識が無いから誰からどういう状態を吸い、治したかも分からない。
……そんな提案を悟が了承するわけがない。
「もちろん断ったんだろ?」
「ああ、そりゃあな。人の嫁を呪物扱いしやがって……、触ってる間に治療を済ませられんだ、白髪化も進めば簡易的にそれを取り除けば何度だって無意識にこいつは治し続ける」
そういって悟の伸ばした手がハルカの額に触れる。そのままにする…、と髪を数度撫でて引っ込める悟は少しだけ、ふっ、と笑った。
「こっちの高専でさー…怪我をしたら触りにくるのはまだ許せるよ。ちゃんと出来た生徒達だし、信頼出来る呪術師も多いしね。僕らが狭いながらも築き上げた未来の呪術師のコロニーだからね」