第23章 突然ですが、さようなら
悟はあの高専時代から随分と経ってから今になって「ハルカが僕の初恋相手だったの!」って信じがたい話をしてきたけれど。なんだってアリな呪物での悪戯。どうやらそれは本当だったらしく悟は当時年上に初恋をして、現在初恋をした年下の同一の彼女と結婚という理解の及ばない事にまで発展してる。私の頭がこんがらがってしまいそうだが、呪物が関わるのならそういうのも"呪物だからね"で済ませてしまえるこの世界。悟の初恋は遅くなったけれど無事実り、時々問題を起こしながらもふたりは順調だった。それは誰が見ても認めるほどにとても仲が良かった。話し相手としても、ずっと一緒に生活をしていても……多分、身体の相性も。
まるで赤い糸にでも繋がれたみたいにとても良い関係を続けていた。
けれども結婚までしたっていうのに、これからのふたりの人生をいざ歩んでいくか、という所でハルカが死んでしまった。
正確には死んで、いくつかの呪術を使い身体を治して、無理矢理に蘇生した肉体。硝子が言うに「意識が戻るかどうかは私に聞くな。期待を持たない方が良い」と言っていた。これは"運"らしい。
多分、ハルカが死んだという時点で悟は壊れてしまったのかもしれない。愛とは呪い、愛とは支配。愛のままに取り憑かれたようにハルカの事だけを優先していた。
それはあの日から現在に至る、悟自身の生活にしても。
医務室から少し離れた個室のドア前に辿り着く。
こんこん、とドアをノックして、少し間を空けてから個室のドアをかちゃ、と開けた。
返事があろうがなかろうか悟は大体ここに居る。それほどまでにハルカを愛していた、良くも悪くも変わってしまった五条悟という男。
「……ああ、傑か」
個室内に足を踏み入れてドアを閉める。起きて欲しい彼女ではあるけれど、どうしてかその安眠を妨げないようにと静かに閉めてしまう。
警戒してた悟も私と分かったらため息を吐いて、ベッド脇の椅子に座ったままに彼女を見下ろしてる。そんな悟の側に私は歩を進めた。