第23章 突然ですが、さようなら
一言、傑の声で疑心暗鬼の心に僅かに晴れ間が入る。
この非術師の居る空間よりも呪術師の居る空間の方がまだマシだと思った。
「……ああ、うん。ごめん。冷静にならないとね……冷静に…」
「冷静になれよ、悟。なれないならば私を止めてくれたあの時のように私が悟を食い止めようか?力づくで…」
……。
あの時、か。高専の時の話、とある集落で傑が暴走しかけた時の話。
誰かから(今になってみりゃハルカだったんだけど)の友達は大事にしろ、悩んでるなら寄り添えみたいな言葉を思い浮かんで、傑に着いてった任務。それ以降、その集落から連れ帰ったミミナナのふたりを養子にした傑。
冷静、か。冷静に俺はなれないな。
こういう所ならばと少し安心して預けてた。でも、勝手にハルカを利用されていた。取り合うようにデメリットを知らないクセに勝手に自分だけ治して感謝すらしてねえ。
今更、誰が発端とか知らねえよ…ただ言えることはもう、ここにはハルカを置いておけないって事。
腕の中の彼女をじっと見ながらに傑に伝える。この間、僕ら以外の非術師が喚いていたけれどなんて鳴き声をしていたのか僕には記憶していない。
「ハルカを医務室に連れてく。こんな所よりずっと安心だ」
「その方が良いね。私もそうした方が安全だと思うよ。硝子もマリアも居る、治療に関しては知識があるから困らないしね」
「ええ、お任せ下さい。術式は医術に適切ではありませんが、一般的な医術は充分に把握しております」
わらわらと詰めかけようにも近付けなくて、怒鳴り声があちこちから聞こえる。
独り占めだ、とか末期の患者を見殺しにするか、とか。全部聞いてたら力尽くで俺が黙らせてしまうかもな。今は何も言い返さないで彼女の身柄を安全な場所に移すのが先だ。
「……ごめん、ハルカ…酷い目に遭わせて。帰ろうね、高専に…」
勝手に知らないやつらに取り合われ、触られて"負"を押し付けられて。下手したら溜め込んだ"負"できっとハルカも知らないうちに二度目の死を味わう目になってたかもしれない。そう思えばゾッとした。
目の届きにくいここよりもいつだって会える場所に。僕たちの居場所に帰ろうか。
……こうしてハルカは病院から高専の医務室、個室へと身を移す事となった。