第23章 突然ですが、さようなら
「……ハルカって人気なんだね、悟、着飾ったりさせたのかい?いつか目覚めてバレたら極刑だよ?関節鍛えときな」
「関節鍛えるってなんだよそれ。いや、僕さ…なにもしてないんだけど?普通に軽いナチュラルメイク程度はするけどただの入院着……、」
病室前に入院着を着た人達が次第にざわざわと騒いで、病室内に何か術式を感じ取れる。見覚えのある術式、これは…彼女の"髪夜の祟り"治療をする際の術式。意識無くとも彼女自身が治療をしてるんだけれど……。
なんか、嫌な予感がする……!
僕はその群がる病人達から目が離せない。
「傑、ちょっとやばい、かも……」
「……うん、急ごうか」
「急ぎましょう、ただ事じゃなさそうです!」
小走りで廊下を駆け、押しかける病人に手間取ってる看護師が病人をなんとか引き留めようとしても彼ら彼女らの背後の病人が押しかけ、中に詰め込むように入っていってる。まるで満員電車のような光景。
それをどんどん僕はかき分けて室内に入った。僕の後ろから傑が、なんとか傑がフォローしてマリアも着いて来れてるみたいだ。
室内は想像以上だった。室外がアレなら室内はうじゃうじゃいる。
押しかける病人、治ったと歓喜の声。羨む声、急かす声。
我先にとベッドに押しかける病人達がハルカに押しかけるように群がってる。
「や、やった!痛みが無い、引いた!末期の病さえも治せるんだっ!」
とある目の下の涙袋が黒っぽくなったジジイが両手を突き出して歓喜した。
「俺を先に触らせろっ!テメエは邪魔だ、最後にしろぉぉ!!」
「あたしが、あたしが生きるんだよっ!」
誰かが喜べば、必ず周りが羨んだ。そのサイクルにはたくさんの感情も渦巻いて、室内には呪いまでやってきていた。
昨日、窓の外から覗いてた呪い。あれと近い見た目の呪いが数を増やして窓の外や室内に数匹紛れ込んでる。はっきり言って最悪の光景。思わず足を僕は止めてしまった。
「なんでだよ……っ、」
チィッ、と舌打ちをした。
どういうわけか。非術師達にハルカが何でも治せるって事がばれてた。
地獄絵図だ。学生時代に読んだ蜘蛛の糸って作品、アレだ。僕の、俺のハルカを救いの糸であると、我先にってゾンビみたいに取り合ってた。