第23章 突然ですが、さようなら
ほんと。ただそれだけの本音。もしもの覚悟なんて今は無い。
無我夢中でハルカを死なせたくなかった。失いたくなかった。その意志だけで生かしてしまった。
その僕の努力を無駄だと思いたくない、今息をして、血液を身体に巡らせてる彼女をただ無駄な命だと思いたくもない。
硝子は静かに僕らを見て、「高専に帰る、まだまだ仕事残ってるし」と帰っていった。
再びふたりきりの状態になる。
「………正直さ、硝子からの話、聞いて絶望したけど」
そりゃあ期待するな、なんて。めちゃくちゃ低い可能性だ、それでも僕は何度も見てるその奇跡に賭けたかった。
絶望の中の希望の光。今だって息してんの、奇跡じゃん。死んでる状態の方が希望が薄かったんだから、今の彼女の方がまだ希望があるのは間違いなかった。
「僕はね、僕が死ぬまでハルカを諦めないから」
にっ、と笑って彼女を見つめた。ああ、いつもキミを迎えに行く夕日の色に染まってる。まるで春日の領域内みたいな橙色の明かり。もうこんな時間なんだね、ハルカ。
「僕に惚れられた事を後悔するんだねー、もっとも、オマエが初恋の相手だからあの時から絶対に逃さないって気持ちだったから……さ」
いつ脳波が正常になって、むくりと起きられるように。
ここではなく、高専でハルカを生かせるように。この子がまるで一日だけ寝て起きたってくらいに。
今は生命活動を切る、なんて選択肢は僕には出来ない。けれども任務と教師である時以外をハルカに捧げようって覚悟は出来た。彼女の全ては僕のモノだ、どうしようとも誰にも口出しされたくない。
僕はそう心に決めて、とりあえず一度高専へと帰った。