第23章 突然ですが、さようなら
「植物人間って知ってるだろ?ハルカは非常にその状態に近い所に居るんだ。生命維持の出来る状態は続いてる、それによって呪術師としての術式回路も正常でどうやら無意識に体の不調は治してるみたいでさ…、担当医に普通長時間心肺蘇生をしたら何かしら異常があるのに無い、また血流も滞る場所があっただろうに一切無い事が驚きだ!……だって言われるほどにさ。
論文のネタになりそうだから、早めの転院を私はおすすめしたいくらいだね」
「うん、治しちゃうのはそこは春日パワーだよねえ……、」
普通じゃ固まった血液で意識が無い内に死んでたかも、だね。無意識な彼女の治癒力に驚かされる。そういう所の運の良さ。奇跡を引き寄せてる所。
硝子は僕から視線をハルカへと移した。
「けど。肉体が正常になったとしても脳はそうもいかなかったみたいでね…、まず脳幹は正常。心臓も肺もご機嫌で異常なしなんだけど……大脳・小脳がね…」
「……」
言葉を選んでるのか硝子は黙る。僕はその続きが知りたくて、同じくハルカを見つめてから硝子を見上げた。僕の手からするりと抜けベッドにばすっ、と落ちる左手は力なくて。
そのハルカを、ベッドに倒れ込んだ左手を硝子は見つめていた。
「……うん。あまり期待はさせたくないから言いたくはないんだけどさ。ほとんど停止してる。でもたまーに微弱な脳波が発生はする、らしいね。植物人間と寝たきり、いや昏睡状態の中間…そんな感じだよ。死から生還しても未だ彼女は危ない橋に居るのは変わらない」
「それ、さ……ハルカが目を覚ます見込み、ある?」
する、と衣服の擦れる音。硝子が手を伸ばしてハルカの顔に掛かる一部の髪を指先で避ける。
そして頬に触れ、すり、すり、と撫でて引っ込める手。
「期待はするな、でも可能性はゼロじゃない」