第23章 突然ですが、さようなら
がた、という音を聞いてその音の方向を見れば白衣を着た硝子。音を立てないように静かにスライドドアを締めて僕たちの元へと歩み寄る。
僕はしっかりとハルカの手を僕の頬に触れさせたまま、硝子を見上げた。
「おつかれサマンサ~」
「…ハルカは?」
「ぐっすり寝てるよ…、起きる気配は無いかな~……」
短いやり取りをして、椅子に座る僕の側で硝子がハルカの顔を間近に覗き込んでる。そして覗き込む体を起こした硝子は、強張った肩の力を抜き、はあー…と、疲れたため息を吐き出した。
「……なんというか。災難だったな」
はは、と笑う硝子はいつも以上に疲れてそうだ。
そりゃあ、急に京都に来てもらってからの治療が続いて、それらが終わってから病院に来てるんだから。しょうがないか。
「うん、まさかこんな事になるなんてね…」
そう、笑って言ったつもりの僕の言葉も少し疲れを含んでた。
本来ならば奥さんとイチャイチャして疲労なんか消し去ってたのにハルカからのレスポンスは全く無い。だからこうして自分で自分のご機嫌取りをしないとやっていけない。
そんな姿を見てか、硝子は呆れるような表情をしてた。
「まあ、それもそうだけれどさー…。私が言いたいのはハルカを生かした事、についてだよ」
僕は目を見開く。なんで?悪いことはしてない、むしろこれは立派な人命救助だろ?
呪いを祓うのに長ける僕よりも命のやりとりに長けた硝子。その硝子の発言に僕は驚いて、ただ「は?」とだけ聞き返してた。握ってた手が僕から滑り落ちてくた…、と手の中に凭れ掛かる。
悲しそうな、残念そうな表情でハルカを硝子は見下ろしてた。
「まあ、五条が必死に蘇生を試みたって努力は歌姫さんや京都の子達から聞いてるよ。あんたが心肺蘇生をしたと聞いてすっごい驚いた、あんたでもそういうのをやるんだなって……それはご苦労さま。でもさ、五条……」
「……何」
ちら、と僕を見る硝子の視線はいつものように疲れてる。目の下の隈とか過労が伺える。
それでも冷静に、ただ事実を述べる硝子。真っ直ぐに僕の目を見てる。