第23章 突然ですが、さようなら
223.
ハルカが京都府内の大きな病院に運ばれて、詳細な検査が行われた。怪我をすぐに治してしまうのが不可解で採血の際、注射針を引き抜いた痕が無くなってる!だとか些細な事で驚かれてこれはちょっとまずいかも、と思えてくる。
……これは目を離しちゃ駄目だ。無抵抗の彼女を実験の材料にされる。
一通り検査を終えたベッドの上、静かな寝息を立てるハルカをベッドサイドの椅子に座ってじっと覗き込んだ僕。どんな夢をみてるんだろう?夢すら見ていないのか。起きる気配のない眠りの真っ只中だ。
『………』
「ハルカ。キミの作ったブラウニーもどきのダークマター、今日食べないと悪くなっちゃうね?まー、あそこまで炭っぽいんだ、すぐには悪くならなそうだけど。アレ、僕が食べても良いよね?今のハルカには口に出来ないだろー?」
文句のひとつも返ってこない。
側にいるのに胸の奥が寂しさを感じて、少しでも紛らわしたいから眠るハルカの髪を撫でる。さらさらとした髪、綺麗な長髪。地毛は染めた場所を含め治療などで白に染まってる部分は多いけれど、それでも完全アウトには遠い。朝見た時と比べたらそれは白髪化は進んでるよ?でも……。
彼女の綺麗な髪に手ぐしを通す。
指の間をさら…、としてていつまでも触れていたい指通り。昨日、一緒にお風呂に入って、同じシャンプーをしたから僕とお揃いの香りがする(彼女の方がとっても良い香りがするのはなんでだろ?)
白が増えてるのはハルカがたくさん頑張った証拠。
皆に必要とされて治して、送り出した立派な戦績。そしてその中には自分で生きようとする意志でどういう経緯か、心臓を穿ったであろう怪我も治した式髪も含まれてる。生きる意志があるなら目を覚ましてくれるハズだと僕は彼女の左手を取った。
……ハルカ。僕、すっごく頑張ったでしょ?
眠ってて意識の無いハルカに変わって僕自身、彼女の手をそっと掴んで僕の頬を撫でさせた。
ちょっとひんやりして、それでさらさらしてる素肌の、今は力ない華奢な指。この指がいつも僕を撫で、美味しいものを作り、たくさんの人を掬ってる。薬指には硬い指輪が嵌められていて、僕の所有物だって証明してる。
「ん、悟クン。いい子いい子……よしよし…」