第23章 突然ですが、さようなら
やばい、これ本気……?やっぱりどれだけどん底まで落とされようとも彼女には這い上がれるほどの奇跡が宿ってるんだ……!
這いつくばるような姿勢を起こして、肩で呼吸を僕はする。汗で全身がぐっしょりしてて気持ち悪い。こんなに夢中で精神と肉体を酷使したの、いつぶりだっけ?高専時代の沖縄…、天内の時くらいか……?
裸眼のままだと今のハルカが生きてるって良く見える。ほとばしる体表を纏う呪力。そして上下する胸元、まるで熟睡してるみたいなハルカ。
諦めないで続けた努力が報われた瞬間の褒美は甘美なものだった。
「………やばい、憂太。これさ、ちょっと僕泣きそうなんだけど……」
ざわざわと騒がしくなる周り。どっかの子らがハイタッチしてんのか、ぱちん!って良い音まで聞こえる。
憂太の力が抜けたのか、肩が下がって強張った表情が緩んでいく。
「よ、よかったぁ~!」
「うん……ほんっと、皆に迷惑掛けてばっかだよ、ハルカはさあ~…」
素肌を隠すタオルの端でハルカの口元を拭く。ハルカの僅かに残った吐血と僕の唾液でべちょべちょ。ついでに僕も自分の袖で口元を拭いて。
タッタッタ、と小走りで駆け寄る音。歌姫がハルカを前にした僕らの側にしゃがんだ。
「念の為、ハルカを病院に連れてった方が良いでしょ、救急車呼ぶ!?」
ちら、と僕を見てからハルカを覗き込む歌姫。
僕はじっとハルカを見る。彼女の体をうっすら包むうねるような呪力が体のあちこちで爆ぜるように見える。蘇生が出来た事で正常に身体全体に満ちてるものが身体の異常を治してる。多分、これは無意識でやっているんだ。通常の眠ってる時はやらないようにしてた彼女(キスマーク消すなって言ってたのを守るための行動が術式の調整になってた)。死体からの正常な身体になったであろう今は術式が無意識で発動してしまっている…。
これは多分、ハルカ自体を治した後は余分な力を使わないハズ、問題は無いだろう。彼女の状態を良く観察しながら。