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【呪術廻戦】白銀の鎹【五条悟】

第23章 突然ですが、さようなら


222.

生きて。生きて。生きて……生きて、ハルカ。
ずっと繰り返してた心肺蘇生、僕も流石に疲れてきた。暑くてアイマスクは首まで下げて心臓マッサージの度にぶらぶらとしてる。それでも止めない、止めてしまったら彼女はまだ間に合う死にたてから、間に合わない、完全な死を迎える。極稀にだけど乱暴すぎたのか、コキ、と嫌な音を立てた時は胸元からばっ、と顔を上げた。憂太がすぐに骨が折れたハルカを治して僕は汗だくになりながらも諦めないで続きの心臓マッサージと人工呼吸と、AEDで電気ショックをひたすらに繰り返した。

救急車なんて呼ばない、呼べない。
僕以外に生殺与奪の権利を他人に渡したくなかった。だって救急車に運ばれた所で諦めたらそこで蘇生を止められる。一秒でも惜しい、医者はプロだからたくさんの人を救いたくさんの命を看取ってる。だからこそこの状態のハルカを見てどう判断するかなんて…。

……うん。知ってるよ。今の彼女は医療のプロにも諦められる案件だって事。硝子やマリアがここに居たら彼女らも首を横に振ってる。それくらいに今は僕の我儘で悪あがきな蘇生を試みてるんだ。
心臓目掛けて圧迫を繰り返す。骨が折れていなくても不安で時々憂太に無意味かもしれない反転術式を使わせつつも。

彼女が死に、その致命傷を負った肉体を治してからのこういった蘇生。非術師の常識ではありえないもの。時代が時代ならキリストのように奇跡だと例えられたか、それともフランケンシュタインだとかゾンビだとかに恐れられたかも。それでも良いんだ、僕は。もう一度彼女が息を吹き返してくれるのなら。
よく眠れるあのリズムを胸の奥から聴かせてくれるなら。キミの不幸はいつも急に降り注ぐけれど、それと同じく奇跡は起こる事も知ってるから。

「はぁー…、」

一呼吸分だけ気持ちを落ち着かせる。
……憂太が近付けないようにしている、離れた位置から声が聞こえる。
歌姫か。「五条はどれくらい続けてるの?………そう」時間を伝えたのは誰だろう、京都の補助監督生かな。1時間以上粘ってる僕は、僕を面白く感じないやつにとっては見世物だろ。蘇生を諦めたら自身で嫁を殺した男ってレッテルを貼られる。春日の最期のひとりを殺した男。死体に狂ったように蘇生を続けてやっと諦めた五条悟……とかかなあ?
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