第23章 突然ですが、さようなら
興味からの質問に視線が赤い空へと向いてる。母の瞳の虹彩は白っぽく濁っていて瞳孔は完全に開いていた。当然、生前の母はそんな色はしてなくて、この空間ではそうなるんだな、とぼんやりと考えながら母の言葉に耳を傾ける。
「……ん。そうね、私は自分の死期をなんとなく把握してたし出来る限り未練の無いようにしてきたから。ハルカの事が気がかりかなーって少し思ったくらいでここに来たわけ。死んだ私が体に戻った所で一族は変わらないわよ。父ちゃんやタイガも一回別れを済ませたってのにまた別れの時が延長するだけだしね、例え身体に戻れたとしても悲しませるだけね」
「それに白髪化して死んだんだし無理!」と母は死者でありながら陽気に笑う。その元気さはこのどんよりとした空間には明るすぎて。
それじゃあ私は…、と自分の髪を手ぐしで掬う。すぐであれば希望があったかもしれない。でも体に帰った所で生命維持の出来ない状態じゃあ治療すらも出来ない。奇跡的に戻れてもすぐにこっちに戻るのが関の山って所かな……。
いくら他人の犠牲になる一族っていってもボディガードのようにばっ!と飛び出して行くもんじゃない、受けた怪我を吸い取っていくほうの負債を受け持つモバイルバッテリーみたいなもの。
誰か、じゃなくてあの場は私しか居なかったから、私そのものを狙われたんだ。自身の胸に手を当てる。この鼓動、心臓はあの時、上手く治せたのにな。自分の血液で溺れるような感覚もあったから、きっと肺も。
重い一撃をお腹から胸に掛けてドン!って受けた時、頑張って治そうとしたのに範囲が一箇所じゃなくって広範囲だった……意識が耐えきれなかった。治すための意識が保てるほどの生命が私に残されてなかったんだ。
せめて即死しないほどであればな、なんて。もう生まれ変わりすら赦されないこの空間で未練を抱えてエンドレスで同じ風景を再現してるオレンジ色の色が変化していかない空を見上げる。
──また悟に逢う事が出来たら。
誰にも叶えることの出来ない私の願い。最期に会いたかった、出来るなら言葉を交わしたかった。でも出来ないのだって頭の中では分かってて、それでも受け入れたくない頑固な私が居て。
もう二度と叶わない願いを胸に秘め、私は静かに悔し涙を流した。