第23章 突然ですが、さようなら
私はあのリベルタで味わった、ゆっくりと大切な思い出を忘れていく恐怖にこれから先にまた飲み込まれるんじゃないかって怖くなってきてる。
あの時よりは悟の事を充分に記憶してるけれど。長い時の中でその見えない持ち込んだものがどれだけ私を鼓舞させるのかは分からない。
生きることに縋りたくてもさ、肉体がない。それでもまだ会いたいって気持ちは変わらなくて生き返れなくても、悟に最期の言葉を掛けたいというそれだけは諦めきれなくて。
もしかしたら、近々ハロウィンだからそういう時に抜け出せるかも、とか来年のお盆とかに行けるのでは?と僅かな期待を持っている。そういう日時がここに影響するのかは全くもって未知数だけれど。そもそも今、どれくらいの日時が経過してるのやら。
たくさん歩いて同じ風景に飽きてしまった。現実であれば何時間も歩いたと思うけれど荒れ地だからこそ風景は変わらない。私は白装束に顔を隠した人達の中から母を探して側に寄り添った。
顔を隠した状態の母が私の方を向いている。
「まだ死んだって感覚、実感出来ない?」
『……うん。今も無意識に領域をさ、展開してる最中なんじゃないのかな?って思いたい私がいる…』
ははっ、て笑って腕を組む母。ちら、と周囲を見て乱雑した木製の棺桶に腰を掛けた。
「ハルカを責めるわけじゃないけれど。本当の本当にハルカが末裔だったからこれから先の私達はどうなってしまうのか誰も分からないのよね」
『全員が呪う事をやめれば解呪されて……とかありそうだけど』
解呪されればこの禍々しい空間も消えていくんじゃないかって。禪院を呪って始まったのならば。そう思っての発言。
母は苦笑いして首を振った。
「……そんな事出来たら苦労しないわよ。その提案は私が死んでしばらくした時に皆に説得した。でもね?話を分かってくれるってずーっと思ってた、私の姉さん達ですらも春日の思想に染まってたんだ。ここに居る皆が呪われた血を受け継いでいても末端の私達の意見はイレギュラーなの。
私からしたら春日の一族は滅ぶべきものって考えていたけれど……あなたは私や他の人とはちょっと違うでしょう?」
充分に母の思想もこれまでの一族より私にとっては"まとも"であると思うけれど。それでも母は一族を緩やかに滅びるようにと私に仕向けていた。
その母の考え方とは私は違うのだと思っている。