第23章 突然ですが、さようなら
ふう、と僕が呼吸を整えていると、胸に手を当て少し呆れたような憂太がへらっ、と表情を崩した。
「それくらい知ってましたよ」……なんてね。憂太は僕のなにを知ってたんだか。僕がシツコイ事?独占欲が高い事?それともこうも諦めない、奥さん想いなスパダリな所かな?
……彼女の仇は葵によって取られてる。僕の怒りや虚しさをぶつける事が出来ないなら仕方ない。
始める前に顔を上げ、憂太を見上げる。
「憂太、ちょっとお使い。一応AED持ってきて!」
「はい!」
……ほんと、昔に免許取ってて良かった。教習所でさっくり習ってたからね。高専となると火災訓練とかしてらんないし。消防関係を呪術に関する敷地内には呼べないしね。僕、教員免許持ってるワケじゃないし。
上着を脱いで中に着てる黒いインナーだけになる。
腕捲りをし、憂太が駆けていった背を見てハルカに向き直った。制服の上着を脱がせて今は中のインナーだけで。
「……うん、大丈夫。僕、最強だから。神サマにはなれなくてもね、なんだって出来るんだよ?絶対にキミを助けるって何度も言ってるし。
きっと、きっとハルカを生き返らせるからね…」
温かく柔らかい頬を撫で、笑いかけてから胸部で自身の指を交差するように片手の甲から握って。
……ごめんね、ときっと乱暴で痛いだろうね。彼女の全てを潰さない様押し込めるように刺激を始めた。
動いて。動いて。動いて…。
願いながら、心臓マッサージの回数を数えながら。ゆっくりすぎず、かといって小動物みたいな早すぎないように。この子の心拍音なんていつも聴いてたからどんなリズムかって事くらい、この世界の誰よりも熟知してた。照れてる時のあのリズムは早すぎるかな。
眠る時、背中から心臓の音を聴いて心地よいリズムで眠ってた。そんな記憶は毎日刻みつけてたからこそ、あの安心出来る心音を途切れさせたくなくて。
「…ふーっ、」
ある程度の回数、やった。まだ心臓は自ら元気に跳ねる事はなくて。
次は肺か、と指先でハルカの顎に触れ、傾けさせて。肺に空気を送るから、鼻をきゅっとつまんで。
唇を覆うように、かぶり付くように塞いで僕の肺いっぱいの空気をハルカへと送った。