第23章 突然ですが、さようなら
220.
「とりあえず憂太。反転術式でハルカの治療を」
体を治した所で息を吹き返す、なんて容易な希望は持たないようにしてる。新の術式を用いても現状維持の状態で生命活動を一切行って無いんだ、心臓も、肺も……。肉体の修復が出来たからといってすぐに心肺機能が回復するなんてそこまで神様も優しくはない。
憂太は掛かったシートをゆっくりと剥ぎ取った。憂太はハルカの血の滲む彼女の腹部と胸元の何かに突き刺された制服の穴から見える、白い肌を見てる。そのまま僕をじっと見た。
「……これらを治した所でハルカさんが息を吹き返すとは思えないんですけど…」
「うん、僕もそこまで甘くないとは思うよ。でもさあ……ハルカは何度も奇跡的に助かってるんだ。きっと、今回も大丈夫………だと思う」
……今までよりも条件がキツイんだけれど。
でも僕がここで諦めたら、ここに居る彼女は助かる術が無くて"遺体"で終わってしまう。これ以上の時を重ねる事なく、焼かれ、骨となって埋められてしまう。僕とのこれからの人生の傍らに寄り添うことなく永遠に眠り続ける……、
そんなのは嫌だ、僕は"ハルカが死んだ"といって蘇生を諦めたくなかった。諦めるとしたら出来る限りの事を試してそれでも蘇生が不可能だと僕が絶望した時だけ。
諦めない限り、ハルカは息を吹き返すんだっていつもの奇跡を信じてるんだ。今はまだ努力をしていない、だから今は心臓も肺もぴくりとも動かない。憂太に反転術式を掛けられるその時から彼女の肉体に時間が刻まれ始める…腐敗していかないように、年齢を重ねて生きていく為に。死んだ彼女をちゃんと生きたハルカに戻してあげないと……。
眠るような死の中の彼女を眺めた。まだ、憂太は術式を掛けてないから時は刻まない。
僕は覚悟をしてる。憂太も居るんだ、何度だって彼女を諦めずに助けるんだから。
「では、いきます!」
「うん、頼んだよ…、」
そっとハルカの肩に触れて反転術式で治療を始める憂太。邪魔はしない、彼女を治せない僕としては歯がゆい時間。ただ黙って僕は見守る事しか出来なくてさ……。