第23章 突然ですが、さようなら
「もちろん大切だよ、ハルカは。でも現場を麻痺されるのは良くない。ちゃんと指示を、」
「……死んでるんですよ!?亡くなっているんです、もう、ハルカさんは笑ったり泣いたりも出来ないんですよ…?」
憂太は優しいね。きちんと泣いて怒ってくれる。今の僕の代わりにそれをしてくれてるみたいだ。
けど、ちょっと違うんだよ、憂太。
僕は憂太の言葉を否定した。近くにただこの状況を見て気まずそうな新、ハルカと補助監督生にシートを被せ直した葵がいる。
「死んでるけどー……死んでない。まだ間に合う、というか間に合わせる」
「なに、言ってるんですか?五条先生…」
信じられないって顔。正気な僕に見えないのかもね……。実際、普通だったらありえない言葉だと自覚はしてる。
シートに隠されたハルカの方を僕は向く。
「今は術式で現状維持されてる。今のうちに任務が滞りなく進められるように配置はきちんと指示する。やるべきことはやる、その後にハルカをなんとかする。
残念だけど、今からこの任務に僕や憂太は含められないけど……」
少し緩んだ憂太の手を振りほどいて僕は簡易的な長テーブルの側へ。
各チーム、呪術師たちの報告、怪我の具合から割り振って指示を行い、数時間後には硝子が来ることも伝えて。
……さて。いよいよこの時がやって来た。やるべき事は全部済ませた。
被せられたシートの側に膝を着いてしゃがみ込む。葵と新には任務がまだ遂行出来るから彼らには現場に向かって貰って。憂太だけがこのブルーシートの掛かった場所に立ちすくんでて。
ハルカを挟んだ場所に僕と同じ様にそっとしゃがむ憂太。
僕はゆっくりと自分の意志でシートを捲る。ぱさ、と音を立ててずっと同じ状態で眠ってるみたいな表情の彼女。
僕は思わずいつもみたいに優しい笑顔を彼女へ向けた。きっと目を覚ますんだと信じて疑ってないからさ?
「……さっ、待たせたね」
触れた肌は僕よりも低い体温。それでも硬直はしてないからきっとまだ大丈夫って希望はあった。
大丈夫…僕なら出来る。ハルカの全ては僕のものなんだ。簡単に神様なんかにあげられるかよ。
三途の川を渡りきっていないだろう、彼女を取り返すための作戦を実行する時が来ていた。