第23章 突然ですが、さようなら
憂太に見せていた画面を、通話に出る前にもう一度確認する。画面の"五条ハルカ"って名前にきゅんきゅんする。恋人だった頃はハルカだけだった。籍を入れてから、いつだって僕のものだって優越感に浸れるようにフルネームで登録し直した連絡帳。
通話をタップして耳へと当てた。
「ハァーイ!ハルカのお耳の恋人、五条悟君でーす」
隣からの「うわ、」と引く憂太の声が聴こえて顔を向けると視線を逸らされた。何よ、うわっって。そんな化け物に遭遇した声とかなくない?てかしっかり聴こえてましたけど??
僕の第一声にいつもみたいに呆れてんのかな、僕のスマホの先のハルカは。ちょっと息遣い程度が聞こえるのだけど。
しばらくして、「あー…」という男の声。ハルカじゃない声に嬉しいって笑顔も消えて耳をスマホに集中する。
「……ハルカ?ハルカのスマホ…だよね?」
"あー、俺だ。東堂だ。すぐにあんたに連絡がつくからハルカの携帯を借りた"
聴こえてきたのは葵の声。もしやハルカが葵にスマホを貸したから?少し前に葵が駅へと向かってたのは知ってる、つまりはなにか急ぎの報告なんだろうって。第一声でハルカの声聞きたかったけれど任務に関係するならしょうがない。
僕はふう、と短く息を吐いた。
「任務についてなら、僕と憂太は配置先の呪いは祓い終わったよ、だから一度本部であるそっちに向かってる所。直接聞けるからさ、多分もうすぐ」
もうすぐ着く。徒歩でおよそ10分程度かな。走ればもっと速いけど。
話している僕の声を葵は遮った。
"まずこちら側の話を聞いて欲しい。いいか?"
「……うん、重要そうね。いいよ」
苛立ってるような口調ではなく、心底ゆっくりと落ち着いた口調だった。
なんの話かな?特級呪霊でも出たか?とスマホを耳に当てながら、隣の憂太を見る。憂太も僕の通話に興味津々でじっと僕を見ててさ。互いに何だろ?ってアイコンタクトは出来てるんじゃないのかな?
葵は少しだけ間を置いた。スマホの先では少し騒がしい、痛みに喘ぐ声とか、包帯こっちだとか。どっかでヤバイの湧いたか…?
僕の予想を遥かに上回る報告がスマホ越しに伝えられる。