第3章 呪術を使いこなす事
「コアラは甘々イージーモード。このクマはまだイージーモードなんだけれどな?」
げぇ…、起きたのかと思ったじゃん!とサインを終えた右手をしっかりとぬいぐるみに触れた。途切れたり、多すぎる呪力を流せばツカモトは眠りから冷め、たちまち私を殴ってくる。これがまた良いパンチをしてくるんだよな、ムカつくほどに。
じっと寝顔を見るのを止めて、私と悟は出口に向かった。
「また頼む、ハルカ。それから五条、あんたハルカの部屋に行くのに壁ぶち抜くのは流石に引くぞ」
『わーっ!家入さんそれはグハッ!』
昨晩、悟がお部屋に訪問して良い?という問いを断り、私は家入と居酒屋に行き、鍵を開けて部屋に帰った時には悟が部屋に居て、ベッドで先に寝ていたという現象。
それを家入に携帯でまた入ってました、とここに来る前にこっそり送っていた。写真を付けて。
心を乱した私は見事にツカモトパンチを食らう。
片手で鷲掴みし、呪力を流しながら殴られた顎を擦った。グローブあっても痛みはあるわっ!
そこへ追い打ちを掛けるように、ドア前の私の顔を覗き込む長身の男。
「ねえ、ハルカ。硝子に何か伝えてる?」
『ナンデモナイヨ、ナンニモイッテナイヨ』
「えー…嘘くさっ!」
落ち着いて呪力を一定量流そう、呪力量が乱れないように…。ツカモトを持ったままドアを開け、肩に手を乗せた悟ごとその場から私は立ち去った。"お疲れさん"の声を背に受けて。
ツカツカツカ、と速歩きで進んでも手は離さない。
「……ハルカ、こっちむーいて?」
布の擦れる音。
絶対アイマスクでも取ったんでしょ。たまに自分の容姿の良さを理解している悟は、ぶりっ子のポーズだのファンサだと抜かしてくる事がある。綺麗だし格好良いのは理解してるよ。
でもだからってどういう反応すれば良いんだよ、と内心叫びつつ見なかった事にするのが正解で、本当にたまに反応してやれば良いんじゃないのかな、と自分でも悟の扱いが分かってきている。
要はアメとムチの配分。鞭は多めに、飴は少なめ、だ!
だからまた"それ"なんだろう、今回はまだ鞭パートだな、と考えている所で肩から手が離れた。ポーズでも決まりましたかねーっとその後ろを嫌々振り返ると悟が居ない。
…?なんだったんだ?