第23章 突然ですが、さようなら
こんな事があるから、悟は異常なくらいに子供子供って執着してたんだ……。ただただ、えっちがしたいだけだろ、くらいに『はいはい、』と相手していたけれど。いざ、こんな状況になってみればもう少しちゃんとその意味を聞けば良かった。
急に来た離別の時。さよなら、も元気でね、も今までありがとうもごめんなさいもなにも伝えられてない。呪術師はいつ死ぬか分からないって知ってたのに。1、2時間前まで悟と一緒に居たじゃん私。行ってきます、いってらっしゃいなんてキスをして、任務が終わったら一緒に出掛けるって約束をしたのに…!
携帯も写真も指輪も、彼に縋るものが何一つなく、両手の拳を握りしめる。
こんなに危険な目にあって死ぬなんて思ってなかった。だって対策は万全、仮本部は安全だったし。きちんと配慮された配置、呪いにすら会う事のない配置だった。悟もそれを知ってる。トラブルが起こってしまって、よく考えて行動した。以前のような無鉄砲にするんじゃなくて距離を取るように心掛けた。相手に致命傷・相打ち覚悟の攻撃じゃなく自身が生きるために努力した。
何がいけなかったんだろう?考えればいつものこと。トラブルメーカーな所が、不運を重ねに重ねて最悪の事態を引き起こしてしまった。
不幸の後には幸運がそのマイナスを巻き戻そうするのがだいたいの私の展開だけど。死んでしまったら元も子もない。幸運はもう手に入らない。戻る肉体が死んでしまった。
最期の記憶の限りは一度目の心臓を貫かれた怪我は治したけれど、瓦礫に腹部や胸部を潰されながら吹っ飛んだ際は治療が間に合うことがなかった。数秒も保たない、治療の意志が届かない。つまりは即死。重要臓器を一瞬に複数同時に潰されてちゃ治せなかったみたいで。
『──こんな、ことなら……』
未練が募っていく。走馬灯を体験することなくここに来たからやり残した事を嘆いた。
昨日、医務室の呼び出しされた時にオーブンを使わなければお菓子作りを失敗しなかった!それで悟に『どうよ?』だなんてちょっとだけこういうのも作れんだぞって自慢が出来たかも。
朝ももう少し話をすれば良かった。
少しだけ早起きしてさ、のんびり朝食を摂りながらありがとうもさよならも、いつ死んだっていいくらいに言っておけば良かった…!