第23章 突然ですが、さようなら
私の後に領域を継ぐものはいないはず。だって私で最後の春日の血族。別に子供が居るとかじゃないし、誰か隠し子でも居たらもっと前から言ってるはずで。
顔に掛かる布。慣れれば結構この生地、透けて見えて退かさなくても周りが見える。相手の顔は見えないけれどさ。
抱きしめられていた腕から開放されて、目の前の母に私の両肩へ手がぽん、と置かれた。
「うん、私も初めは信じられなかった。でもあなたや私の母さんが居たから領域が存在するんだ……そう思ってたよ。今回ばかりは未知の領域、私達はどうなっちゃうんだろうね…」
『……』
何も口に出せない私の側に、顔を布で多いながらも誰であるか一目瞭然である、真っ赤な服を着た人……始まりの春日である鎹が立ち止まった。
「この春日の一族の始祖である私もこれから先は見通せん。本当の末裔での死でこの場がどうなっていくのかも……」
誰も分からない。
一気に絶望に染まっていく。
ここは切り離された領域。時間の経過が曖昧な空間。その場で永久に過ごす事になるのか、ある日突然消えるのか。音を立てて崩壊していくのか、痛みなどを受けながら因果応報を受けて消えていくのか。答えの出ない中で何もかもが分からなくて不安で…。
この場から逃げ出したかった。いつものように領域から脱出して現実へと戻りたい。死んだ事が信じられなくて信じられないくらいにか細い声が私の口から漏れ出した。
……"どうして"
誰かの耳に入ったのか知らないけれど少なくとも私には届いた疑問。
不気味な夕暮れのまま時間の止まった空。その下の無数の死者たち。私もついにはその死者の仲間入りになりました、だなんて誰に言える?いや、言う機会なんてない。外からも干渉出来ないんだ、だって春日専用の領域なんだから。
『………』
なんて言葉を口から出せば良いんだろう?何か言葉に表したいのに唇を開いて何も言葉が出なくてまた結ぶ。
ひとりで少し考えたい。母の手の乗った肩、一歩下がってふらふらと重く感じる足を擦って歩く。母も近くに居た鎹も何も私に声を掛けず、ただ顔だけはこちらへと向けていた。