第23章 突然ですが、さようなら
217.
とうとう私は死んでしまった、らしい。
なんでこの領域に居るのか、なんて。私の意志で、無意識での領域展開をしたわけでもない。今私がここに居るのは春日の女として生まれ落ち、呪術師として生きた後に行き着く場所。春日の本家の敷地内に肉体の墓地があるとしたら、この領域は魂の墓地のような場所。末裔ほど力を増していく、という意味はここに死者の魂が集まってそれを生きてる術者が使役するから……。でも、私が最期だった。生きている者はいない。
死んだだなんて信じられなかった。母に抱きしめられながら、ただ静かなその禍々しい空を布越しに見上げてた。
血のように赤く、オレンジよりももっと燃え盛るような空。生命を感じさせない大地、枯れた木、乾いた大地に荒れた墓地。正直言って長居したくない場所。
他人事みたい。私自身が死んだ、なんて信じてたまるか。ふと自分の髪を片手で梳いて手のひらで見る。真っ白じゃなくてまだ半分くらいまで染まってるくらい。まだまだ式髪全てを白髪化しきれてないのに。さっきまで私は生きてたし。呼吸も意識もあった。ただ瞬きをしたくらいのほんの一瞬、それでここに居た。そんなの死んだ、だなんて実感ないじゃん。ひとことふたこと言う時間さえもなかった!
何度も何度も現実に帰ろうとしたけれど急に帰り道を忘れたみたいに帰れなくて。どうやって帰ってたっけ?帰り慣れた道を忘れてここで途方に暮れていた。
……皆真っ白な髪の中できっと私だけ地毛が混ざってるのはとても目立つでしょうけど。春日の一族として生を全う(身代わりだなんて、生を全うなんて言うか?)して生きてきた人達。
他人の"負"を吸い続けたわけでもなく、一方的に狙われて死んだのは私くらいなのかなあ……。
不安と後悔に満たされていく心。そして着替えた訳でもないのにいつの間にかここに居る皆と同じ白装束を着てるのが絶望を煽る。死者らしい格好で、気味が悪くても着替えなんてない。本当に着の身着のまま、というか奪衣婆に身包み剥がされて専用の服を着せられたみたいな状態。悟から貰った指輪すらも無かった。
『死んでも生きてる時と変わらない意識が続いてるのなんて。悪夢の中みたいで、死んだという事が信じらんないんだけど……』
……悪い冗談だと思いたいくらい。